第29回海事立国フォーラムin東京2021~流動化する国際情勢等の中での今後の外航海運の展望~を開催しました。
第29回海事立国フォーラムin東京2021~流動化する国際情勢等の中での今後の外航海運の展望~
1. 日時 | 2021年10月19日(火)14:00~ |
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2. 場所 |
海運ビル2階「国際ホール」 (東京都千代田区平河町2-6-4) |
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3. 講演者
<パネルディスカッション>
モデレーター: | 一橋大学名誉教授 杉山 武彦 氏 |
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パネリスト : |
(一社)日本船主協会会長 池田 潤一郎 氏 早稲田大学法学学術院教授 河野 真理子 氏 国土交通省海事局長 髙橋 一郎 氏 |
<調査研究報告>
「ベトナムの海運事情」
(公財)日本海事センター専門調査員 チャン ティ トゥ チャン
コメンテーター: | 神戸大学客員教授 羽原 敬二 氏 |
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4. プログラム
<主催者挨拶>
<パネルディスカッション「流動化する国際情勢等の中での今後の外航海運の展望」>
早稲田大学法学学術院教授 河野 真理子 氏
国土交通省海事局長 髙橋 一郎 氏
<日本海事センター調査研究報告「ベトナムの海運事情」>
<閉会挨拶>
第29回海事立国フォーラムの開催結果(概要)
(1)開催の概要
令和3年10月19日、東京都永田町の海運ビル内「国際ホール」において、第29回海事立国フォーラムを開催いたしました。
当日は、「流動化する国際情勢等における外航海運の展望」と題して、新型コロナのパンデミックや米中対立、気候変動対策といった変化の激しい国際環境等に晒される外航海運に関して、産官学のトップの皆様方をお招きしてパネルディスカッションを行いました。また、経済成長著しく、日本との結びつきも強くなっているベトナムの海運事情について、当センターのチャン専門調査員が報告を行った後、羽原敬二神戸大学客員教授から質問を頂き、関連の取組等に関する発表を行っていただきました。
(2)主催者挨拶
日本海事センターの宿利会長から、「新型コロナウイルスのパンデミックを契機として、かってないほどグローバル・サプライチェーンへの注目が高まっている。国際海上物流においては需要の拡大に対して供給が追いつかない状態が続いており、スケジュールの遅延やコンテナ船の運賃が高騰するなど、サプライチェーンの混乱が続いている状況にある。本年3月に発生したスエズ運河の座礁事故では約400隻が足止めされるなど、大きな影響が発生した。
また、気候変動対策についてはIMOが意欲的な目標を掲げており、海運業界全体として本格的な取組が必須の状況である。
さらに、海事イノベーションへの取組が期待され、洋上風力発電など新たな事業への積極的な取組も期待されており、加えて、厳しい国際競争の中で、海運業、造船業をはじめ我が国の海事産業の競争力強化を図っていくこと、優秀な海事人材を計画的に育成・確保していくことは、海洋国家・海事立国である我が国の経済安全保障上も極めて重要である。
このような、変化が激しく、不確実性の高い国際情勢の中で、日本の海運がさらなる前進と発展を成し遂げるためには、山積する主要課題のそれぞれに対し、産官学が今まで以上に連携・協働して、積極的かつ着実な取組を戦略的に進めていくことが重要である。」といった内容の挨拶がなされました。
(3)パネルディスカッション
まず、パネルディスカッションにおいては、
モデレーター: | 杉山武彦 一橋大学名誉教授 |
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パネリスト : |
池田潤一郎 日本船主協会会長 河野真理子 早稲田大学学術研究院教授 髙橋一郎 国土交通省海事局長 |
の4名により意見交換が行われました。
外航海運に関するテーマが広範多岐にわたる中で、
1.国際情勢の変化、新型コロナウイルスの感染拡大の中で変貌する外航海運の動向
(発表資料:池田会長発表資料、髙橋局長発表資料)
2.主要課題への対応
- ①環境問題(GHG削減等)(発表資料:池田会長発表資料、髙橋局長発表資料)
- ②海事イノベーションの推進(発表資料:池田会長発表資料、髙橋局長発表資料)
- ③その他(安定的な国際海上輸送の確保、優秀な海事人材の育成・確保)(発表資料:池田会長発表資料、橋局長発表資料)
3.外航海運の将来展望
という5つのテーマに分けて、杉山名誉教授がモデレーターを務め、池田会長と髙橋局長が各テーマに関して取組状況等の発表を行い、河野教授が質問等を行って意見交換を行い、最後に杉山教授が締めくくりの発言を行うという形式で大変活発な意見交換が行われました。
まず、1.については、
- ・新型コロナの感染拡大に伴い、船員交代が困難化していること
- ・巣ごもり需要等急速な需要回復に対して、コンテナ不足、港湾混雑等により需給が逼迫している状況が続いていること
- ・本年3月のスエズ運河の座礁事故などに伴い、国際海峡の重要性が改めてクローズアップされていることなどが紹介されました。
- ・いずれの問題もコロナの終息が本質的には必要であること
- ・今後は、海上輸送ルートの安全で安定的な確保船舶のほか、海運を支える人材の育成といった持続的な取組のほか、コンテナ、港湾、陸上輸送といったトータルなインフラ投資が必要である。また、各国が連携した国際的な取組が不可欠であるほか、船会社が長期的な投資をしていくための環境づくり
- ・支援も必要である
- ・今後に向けてはBCPということがますます重要になってくる。BCPは連携・協調により強度を増すものであり、今後国内間と国際間で連携・協調が必要になってくると思う
本取組紹介および質疑応答の中で、
等の発言がありました。
続いて、主要課題への対応として、「①環境問題(GHG削減等)」について意見交換が行われました。IMOでは2050年に2008年比でGHG総量を50%以上削減するという意欲的な目標が合意されており、今後代替燃料及び船舶の開発普及を加速化していく必要があること、また、船舶向け燃料の確実な生産、世界的な供給体制確立が必要になることなどが紹介されました。
本取組紹介および質疑応答の中で、
- ・新燃料についてはさまざまな検討がなされているが、どれが主要なものになるかは現時点では未定である
- ・技術開発には課題が多い一方、多大なコストが見込まれ、海運業界だけでの負担には限界がある
- ・カーボンニュートラルは我が国の競争力強化において命運を握るものであることから、技術的課題はもちろん政治的要素を含めて日本は国際的な主導を果たしていく必要がある
- ・今後の議論に関しては、海運事業者にとって透明性が高く予測可能であることが重要であることから、規制手法の内容もさることながら経済的インセンティブが働くよう先導していくことが重要である
- ・環境問題に関しては、港や陸上輸送、供給の問題等含めオールジャパンで取り組んでいかなければいけない重要な課題である
等の発言がありました。
続いて、主要課題への対応として、「②海事イノベーションの推進」について意見交換が行われました。外航海運業界として、船陸間通信環境の向上、デジタル技術の活用のほか、新たに自動・自律運航に向けた取組などが進んでいることが紹介されました。また、海事局においても、自動運航船の開発・実証事業が進んでいること、デジタルインフォメーションの推進が図られていること等が紹介されました。
本取組紹介および質疑応答の中で、
- ・自動運航船については、実証運航の環境が整っている内航海運が先行している状況であるが、実証実験を進める中で外航海運にも適用していく
- ・自動運航の分野で欧州との競争に勝つということは日本の海事クラスター上も重要なことなので、デファクトスタンダードを欧州に作られないよう意欲的な取組が必要である
- ・洋上風力に関しては、日本の海域に合わせた性能基準が重要であり、安全設計ガイドラインを策定するなどの取組を進めており、海事産業基盤強化法でも洋上風力への取組を念頭に置いた規定が組み入れられている
- ・自動運航の技術が外航分野でも適用になり、日本の性能標準が世界の標準になるようぜひ頑張ってほしい
等の発言がありました。
続いて、主要課題への対応として、「③その他(安定的な国際海上輸送の確保、優秀な海事人材の育成・確保)」について意見交換が行われました。経済、社会、経済安全保障を支える外航海運として、税制についての海外との競争条件均衡化は重要な事柄であること、また、優秀な日本人海技者の確保・育成等も重要であり、海運を国民に認知してもらう活動が不可欠であることが紹介されました。
本取組紹介および質疑応答の中で、
- ・激しい国際競争の中で、日本のサプライチェーンを守るためには、他国が提供しているような優遇税制に対し、我が国でも競争条件に関してぜひイコールなものをお願いしたい
- ・人材育成・確保については、学科・乗船実習の両面で船員教育機関が役割分担し、連携・協働して実施していくことが重要である
- ・船員の労働環境改善のため、本年成立した海事産業基盤整備法においても働きやすい職場づくりに向けた取組の促進が図られるようになっている
- ・国際海運はまさに日本のインフラだが、まだ国民に十分に認知されているわけではないと思うので、外航海運業をはじめ日本の海事クラスターが広く発展していくことが経済安全保障上も重要だということをもっとアピールしていきたい
等の発言がありました。
最後に、今後の外航海運の将来展望として、各パネリストから
- ・海運はサプライチェーンの一部であり、インフラ産業として不可欠な存在であり、引き続き強靭な海運であるためにも、財務基盤がしっかりして、新規投資も行うなど、若い人にとって魅力的な職場でなければならない
- ・安全をゆるがせにしない、事故があっても人任せにしない日本の海運事業に誇りを持ち、日本の未来を担うインフラとして飛躍していってほしい
- ・国際的なルール作りは日本の影響力を増すきっかけになると思うので、これからにますます期待したい
- ・外航海運は激しい競争にさらされているとともに世界のいろんな事象に敏感に影響を受けるという特性を持っているが、今後ぜひ強靭でしなやかな外航海運として発展を遂げていってほしい
といった発言がありました。
(3)日本海事センター調査報告
まず、日本海事センターのチャン専門調査員から、「ベトナムの海運事情」として、
- ・ベトナム政府では海運産業政策が重要な産業政策の一つとして位置付けられていること
- ・ベトナムの船主は国有・準国有会社が大半であること
- ・大規模な港湾も整備されていること
- ・他国とともに船員養成にも力が入れられていること
- ・造船業も拡大してきていること
等が紹介されました。
続いて、コメンテーターである羽原敬二神戸大学客員教授からの質問に対して、ベトナム海運の抱える課題として、ベトナム船隊については、①船舶が小さく古いこと、②国内船社の規模が小さく、国際輸送の需要に対応できないこと、③国内船員の年齢構成が高く、代替人材が少ないこと、等の課題の紹介がありました。
羽原先生からは、
- ・日本はベトナムをASEAN・インドシナ経済圏の窓口として、ODA等を通じてパートナーシップを強化してきたこと、
- ・また、アジア太平洋地域で、海事システムネットワークを構築していること
が紹介された後、今後は、
- ・グローバルサプライチェーンの強靭化のため、開発途上国の船員養成に貢献するなどの取組が必要であり、そのための組織を設置することが必要である
- ・さらにはアジアの海事のセキュリティ向上など、今後は海洋立国としての海事総合力の機能強化と連携が求められる
等のコメントがありました。
最後に平垣内海事センター理事長から、
「最近、物流でラストワンマイル問題ということが取り上げられていたが、四囲を海で囲まれる日本において外航海運で日本まで荷物が届かない、ということがコロナ禍で明らかになった。池田会長からは「外航海運は縁の下の力持ちでいい」「縁の下でうまくいっているため普段は国民に広く認知されなくてもいい」といったご発言がありましたが、やはり今後は広くその役割や大切さ等を広く理解していただく活動が必要だと思う。海事センターとしても外航海運をはじめ海事全体の理解を深めるための活動をしていきたいと思います」
といった挨拶がありました。
今回の海事立国フォーラムは、国土交通省の後援のもと、海事関係組織をはじめ、海運関係、一般の方など多くの方にご参加いただき、盛況のうちに終えることができました。また、映像配信でも多くの方にご視聴していただきました。
本フォーラムの詳しい様子はユーチューブでいつでもご覧出来ます。どうぞご覧ください。
なお、本開催結果(概要)は主催者側の責任でまとめたものです。発言のニュアンスや語尾等を正確に再現できていない箇所、また、発言が欠落している箇所等があるかもしれませんので、発言の詳細を確認したい場合は必ずユーチューブを視聴してご確認していただくようお願いします。