第4回JMC海事振興セミナー
「洋上風力発電への海運業界の進出と将来展望」
を開催しました。
開催概要 | 近年、再エネ海域利用法の下で洋上風力発電の導入への取組が日本各地で進められており、外航海運企業グループでも新たな商機として調査、輸送・建設・敷設、メンテナンスなどの各局面での取組が進められています。 今回は、洋上風力に関わる船舶に詳しい有識者より今後必要と思われる取組みや課題等について講演して頂き、海運業界・船舶の観点から洋上風力に関する展望を探ることと致します。 |
---|---|
日時 | 2022年10月12日(水) 14:00 ~ 16:00 |
開催方法 | オンライン(Zoom ウェビナー) |
開会のご挨拶 | |
ご講演 | |
ご講演 | |
ご講演 | |
ご講演 | |
総評及び質疑応答 | |
閉会のご挨拶 | |
セミナー動画 (通し) |
https://www.youtube.com/watch?v=aTekG-WOh1I |
第4回JMC海事振興セミナーの開催結果(概要)
1. 開催概要
令和4年10月12日、東京都千代田区麹町の海事センタービル4階会議室において、第4回JMC海事振興セミナーを開催いたしました。
当日は「洋上風力発電への海運業界の進出と将来展望」と題して、ZOOMを活用したオンライン配信により実施いたしました。
多くの視聴者から参加登録をいただき、盛況裏に開催することができました。
2.講演内容
(1)「商船三井グループの洋上風力発電への取り組み」(株式会社商船三井エネルギー営業本部電力・風力エネルギー事業群第二ユニット
ユニット長 杉山正幸氏)
持続可能な企業を目指し「商船三井グループ環境ビジョン2.1」として2050年までの温室効果ガス(GHG)排出量実質ゼロなど3つの中長期目標を掲げ、グループ全体での洋上風力発電事業ほか低・脱炭素事業の拡大など5つの戦略で取り組んでいることについて紹介がありました。
また、海運業・海洋事業で培われた知見やリソースを活用できることなど商船三井グループが洋上風力発電事業に取り組む理由や、発電事業に加えて立地環境調査、物流、建設・設置からO&Mまでの洋上風力バリューチェーン全体へ渡る事業内容、とくに浮体式洋上風力発電所においてO&Mを含む浮体式構造物での知見・経験が活用可能であること等について説明がありました。
(2)「洋上風力発電事業における船舶への期待」(一般財団法人日本海事協会事業開発本部環境・再生可能エネルギー部専任部長 三浦明純氏)
浮体式洋上風力発電共同研究、福島沖洋上風力発電実証プロジェクトへの参画をはじめ、風車型式承認事業、ウィンドファーム認証事業など日本海事協会の風力発電との関りについて説明がありました。特にウィンドファーム認証事業に関する認証モジュールと審査について、および浮体式洋上風力発電設備に関する船級検査について、紹介がありました。また、日本海事協会が行っているMarine Warranty Survey (MWS)事業について、各検査項目を含めた紹介がありました。
最後に、官庁・発電事業者・EPCなど関連業界から寄せられた船舶・海運への期待について、洋上風力発電の導入拡大は作業船の可用性次第であるところ欧州では今後作業船数の逼迫の可能性があること、また許容有意波高について課題があることなどの説明がありました。
(3)「洋上風力発電所設置に係る特殊船舶の活用および一般船舶との調整」(神戸大学大学院海事科学研究科教授 藤本昌志氏)
洋上風力発電設備の設置に関する海域調査・検討、輸送・物流、設置・据付、運転・保守の各フェイズに応じて使用される調査船、運搬船、設置船(SEP船)、ケーブル船、作業員輸送船などの特殊船舶について説明がありました。さらに特殊船舶を活用した幅広い取組みの可能性について、欧州における歴史を含めて紹介がありました。
また、設置工事等の際の一般船舶との調整に関し、一般船舶と作業船等の交通整理のためのVTIS業務について、港務通信・情報の共有・動静把握などによる運航支援、日本における民間のポートラジオや海上保安庁の交通管制などの取組みについて説明がありました。
(4)「海外における航行安全確保の取組等の動向」(公益財団法人日本海事センター企画研空部研究員 坂本尚繁)
海事センターにおけるこれまでの洋上風力調査の概要とその内容として、①英国、②台湾、③その他の国(ドイツ・オランダ)における航行安全確保の取組みの概要について説明をしました。①英国については、事業者側および船舶側が参照すべき事実上の基準とされる航行安全ガイドラインの内容、②台湾については、船舶航行安全の確保に関するガイドラインの制定などの取組み状況、③ドイツ等については、航行規制などの規制的な手法について紹介いたしました。
3.質疑応答
コメンテーター(早稲田大学法学学術院教授 河野真理子先生)より報告者への質問事項
(1)杉山様への質問
「洋上風力発電事業において輸送や設置工事、関係する人員の育成事業にとどまらず、船会社として発電事業そのものに参入する意義やその背景について」質問があり、「草創期にある日本の洋上風力産業において相応に役割分担をして産業の発展に貢献し、また商船三井が提供するサービスの品質を向上していくには、サプライチェーンに対してどのようなニーズや要請があるのか正確に理解する必要がある」との回答がありました。
また、「浮体事業を展開していくうえで、現時点で想定している課題等について」質問があり、「今後日本の海域で主流となる浮体式基礎の種類・製造場所・係留手法など施工面の課題、そのための港湾等インフラ整備の必要に加え、沖合での設置に向けた利害関係者の特定、調整の方法など調整面にも課題がある」との回答がありました。
(2)三浦様への質問
「認証事業に関係する法令や基準が含む課題について、特に洋上風力発電の活性化の観点から」質問があり、「ウィンドファーム認証における審査時間の見直し、Marine Warranty Surveyの日本の状況に合わせた一層の合理化のほか、船舶の許容有義波高の設定につき整理の必要があり、日本の事業者が不利にならないよう検討を進めたい」との回答がありました。
また、「日本の海運業が今後果たしていくべき役割や日本の海運業に期待していることについて」質問があり、「洋上風力事業に精通する人材育成が急務で共通基盤の整備の必要があり、NKとしてもInternet of Wind Energyというプラットフォームの起ち上げ等の協力・取組みを行っていく」との回答がありました。
(3)藤本様への質問
「一般船舶の運航との調整に関する日本特有の課題について、特に重要なものと思われるものは何か、日本が洋上風力発電事業を積極的に推進していくためにどのような対応が必要か」質問があり、「日本で行われている民間のポートラジオと海上保安庁の交通管制との間の調整や、漁業分野との共存・共栄をどのように図っていくかが重要となる」との回答がありました。
(4)坂本への質問
「海外の取組の中で、特に日本において参考とすることが有益であると考えられるものについて」質問があり、「英国のような事業者・船舶それぞれに対する航行安全ガイドラインの作成・整理のほか、安全水域の活用などが参考となりうる」と回答いたしました。
4.総評
河野先生から以下のコメントがありました。
洋上風力発電は今後日本がGHG削減を行っていくための発電方法として不可欠のものとなると考えらえるが、洋上風力発電の特性を踏まえ、今後以下の諸点の検討が必要となる。①洋上風力発電という産業は近年大きく発展しており、この発展のスピードに応じた迅速な意思決定が必要となる。②欧州で洋上風車は大型化の傾向にあるが、国際的な動向も踏まえつつ、日本にとっての適切な規模を別途検討することも重要となる。③欧州の北海沿岸諸国では洋上風車の製造及び設置に関する国際分業が行われているが、日本としてもかかる国際ネットワークへの参加が重要となる。④洋上風力産業の基盤としての港湾施設の整備が必要であり、洋上風車の効率的な設備製造と設置のためには大規模な施設が不可欠となる。⑤洋上風力発電では特殊な技術を持った人材があらゆる場面で必要であり、人材育成が必要である。⑥これらの点に適切に対応をしていくためにも、2050年GHGネットゼロ目標達成のため、投資の拡大について考える必要がある。
また、欧州では海洋空間計画の策定の動向が進んでいるが、日本でも海洋の利用方法の多様化・重複に伴って、限られた海域でそれぞれの利用目的をどのように合理的に調整するのか検討する必要があり、欧州諸国等で取組まれている海洋空間計画の取組みが参考となる。
5.視聴者からの質問と回答
①杉山様に向けた質問
「多くの事業者・船会社が洋上風力に関わる中、商船三井ならではの強みや独自性、顧客に信頼感を与える要素について」質問があり、「海運業・海洋事業で培われた知見のほか、風力エネルギー事業部の設立をはじめとする体制整備、台湾における洋上風力発電事業への参画による様々な知見の獲得、これまでの浮体技術・知見の蓄積などが挙げられる」との回答がありました。
②三浦様に向けた質問
「作業船の可用性について、日本は十分と考えられるか。および日本で洋上風力発電を拡大していく上で、船の可用性以外にどのような課題があるか」質問があり、「NKとしての船舶の可用性予測は難しいが、引き続き関連業界に船舶の必要性を伝えていきたい。今後は浮体の技術開発が重要で、グリーンイノベーション基金事業等を通じ官民一体でのコスト削減の取組みが必要」との回答がありました。
③藤本様に向けた質問
「洋上風力発電産業の人材はどこで養成されているか、および神戸大学海事科学研究科としての関連する取り組みについて」質問があり、「基本的に海技免状を取得できる学校を卒業したのち海洋土木業界に入ってOJTで技術を取得しているのが現状。欧州の業界スタンダードが世界標準となりつつあり、日本としてキャッチアップが必要。一大学一研究科だけでの対応は困難であり、オールジャパンとしての取組みが必要」との回答がありました。
④坂本に向けた質問
「安全水域の導入につき実際に取られる実施措置について」質問があり、「英国では警備船で現場海域の監視を行うほか、海域は遠隔でモニタリングされており、安全水域への侵入等の違反をした場合には処罰がなされる」と回答いたしました。
以上
(注)
この結果概要は速報性を重視し、事務局の責任で編集しているものであり、発言の取り上げ不足やニュアンスの違い等がある場合があります。このため、正確な内容については必ず画像及び音声をご確認いただくようにお願いします。