第6回JMC海事振興セミナー
「グローバルサプライチェーンの強靭化に向けた国際海運・物流の課題と将来展望」
を開催しました。
開催概要 | 新型コロナウイルス感染症のパンデミックに伴いグローバルサプライチェーンが大きな混乱に見舞われる中、世界中の企業関係者が供給体制の再構築を迫られている。特に、海上コンテナ輸送を中心とした国際物流の強靭化・持続可能性の追求は、海上コンテナ輸送の遅延や運賃の上昇、さらにはロシアのウクライナ侵攻などの状況を受けて、海運・物流関係者にとって喫緊の課題となっている。 このため、船社・港湾・荷主・フォワーダー等の有識者・専門家に集まって頂き、エンドツーエンドの国際複合一貫輸送サービスの課題と将来展望について、最新の動向の情報共有とともに意見交換を行うこととしたい。 |
---|---|
日時 | 2023年5月10日(水) 14:00 ~ 16:30 |
開催方法 | オンライン(Zoom ウェビナー) |
開会挨拶 | |
ご講演 |
|
ご講演 | |
ご講演 | |
ご講演 | |
ご講演 | |
パネルディスカッション |
|
閉会挨拶 | |
セミナー動画 (通し) |
https://www.youtube.com/watch?v=PaWsXkZToZs |
第6回JMC海事振興セミナーの開催結果(概要)
1.開催の概要
令和5年5月10日、東京都千代田区麹町の海事センタービル4階会議室において、第6回JMC海事振興セミナーを開催いたしました。
当日は、「グローバルサプライチェーンの強靭化に向けた国際海運・物流の課題と将来展望」と題して、ZOOMを活用したオンラインセミナーを行いました。多くの視聴者から参加登録をいただき、盛況裡に開催することができました。
2.講演及び意見交換の概要
(1)関西大学商学部教授 飴野仁子 様
「グローバルサプライチェーンの強靭化に向けた日本の海上コンテナ輸送と国際物流の課題」
「途切れ目の無いサプライチェーンに向けて~世界・国内と繋がる国際コンテナ港湾を生かす~」というサブタイトルの下、以下の通り報告がありました。
1.国際基幹航路の寄港:日本のサプライチェーン途絶リスク回避策(国内の生産力強化、国内の生産拠点等の整備)、国際基幹航路の寄港回数(直行便の充実、コンテナ船の平均船型の推移、北米東岸向け直航輸出航路の横浜港への新規寄港開始。)
2.集貨・創貨の取組み:釜山港トランシップ貨物の転換(①国際フィーダー航路網の強化(地方港からの集貨)、②外航フィーダー航路網の強化(東南アジア等からの広域集貨))、CT近隣への物流施設の集積(ロジスティクス・ハブ形成、新たな貨物需要を創出)。
3.選ばれる競争力ある港湾へ:港湾・海運の脱炭素化を推進するために、①日本企業の脱炭素化の経営認識促し、②CNP認証制度を導入する。港湾物流業務の効率化、コンテナ物流の生産性向上、データの提供・活用(サイバーポートとNACCS連携等・海上・陸上コンテナ物流の効率化、コンテナターミナル一体利用推進、高規格ターミナルの整備)。
4.港湾労働を取り巻く環境と港湾ターミナルの未来:港湾労働に関する状況、人を支援するAIターミナル
(2)NIPPON EXPRESS ホールディングス株式会社グローバル事業本部海運フォワーディング部部長 犬井 健人 様
「フォワーダーの国際物流戦略と海上コンテナ輸送」
以下の通り報告がありました。
1. 海運市況の振返り
海運市況混乱の主要因として、➀堅調な輸送需要+コロナ感染による港湾の作業人員欠如、港湾混雑の悪化、輸送遅延の拡大、スペース不足、運賃の高騰+コンテナ不足があり、アジア北米トレードとアジア欧州トレードとも、2020年7月から21年年間を通して、荷動きと運賃の上昇が続いた。
2.国際物流戦略とフォワーダーの施策
A. 競争力強化に向けたフォワーディングの施策
NXグループの競争力強化にむけたフォワーディング体制の確立を目指し、NX GLOBAL OCEAN NETWORKをシンガポールに設立、船社選定・集中購買、NVOCC海上輸送商品の企画、グループ現地法人への販売及び役務提供などを行った。
B. グリーン物流
欧州系フォワーダーを中心に海上LCLサービスの排出量実質ゼロのカーボンニュートラルへの切り替えを行い、NX-GREEN Calculatorなどのグリーン物流に取組んだ。
C. スマート物流
各社で・見積もり・貨物追跡・海運市況情報の提供などデジタル化が加速。荷主・フォワーダー・欧州フォワーダー、日系フォワーダーはデジタル化に取り組んだ。
D. ①サプライチェーン維持のためのサービス力:サプライチェーンの策定と維持のために、海外ネットワークと作業戦略を活用した物流サポート体制とフォワーディング+α(付加価値)(ロジスティクス、国内輸送、その他の作業)構築、グローバルSCMソリューションとBCPのための輸送サービスの造成につながった。
②サプライチェーンの創出と維持:BCPのための輸送サービスの造成、コロナ禍の物流への対応として、メキシコのマンザニーロ経由SEA & Truck、中欧鉄道を利用した中国欧州間ルートを創出した。
(3)A.P. モラー・マースク公共政策・規制担当本部駐日代表 山本 航平 様
「サプライチェーンの強靭化に向けた今後の論点」
マースクラインが、海運業からインテグレーターの立場へ変更したこと、その視点から、以下の通り報告がありました。
1.本日の位置付け
• 「サプライチェーンの強靭化」への関心は高いが、実践している企業数は増えてはいないのではないかという疑問がある。
• 今後の論点は、「強靭化」がもつ2つの要素である、自社サプライチェーンにおける「ダメージ耐性を強め」、「速やかに回復」できるためにはどうすれば良いかということである。
2.「ダメージ耐性を強めるには?」
検討すべき耐性強化に向けてのテーマは、「データと可視性」。「在庫状況の可視化」、「情報の可視化」、「貨物状況の可視化」、「サプライチェーンデータの統合」が4つのポイントとなる。
3.「速やかに回復」できるには?
テーマとして、速やかな回復を実現する「アジリティ」として、「輸送の柔軟性」、「柔軟で広範な倉庫ネットワーク」、「BCP策定と明確な実行体制」の3つのポイントがある。
結論:サプライチェーンを取り巻く事業環境が根幹から変容しており、サプライチェーンの“再配線”、戦略的パートナーシップ、新たな物流ソリューションが必要である。
(4) 横浜川崎国際港湾株式会社代表取締役社長 人見 伸也 様
「サプライチェーンの強靭化における国際コンテナ戦略港湾の役割と取組」
以下の通り報告がありました。
1.会社紹介
2.横浜・川崎港コンテナ取扱量の動向
コロナウイルス感染症拡大の長期化、ウクライナ侵攻や上海のロックダウンなど世界情勢が不安定な状況のなか、2022年横浜港・川崎港外内貿のコンテナ取扱個数は前年同期比増加見込み。コロナ禍前の水準に近づきつつある。
3.日本の港湾を取り巻く現状
アジア・アメリカ間の国別コンテナ輸送量に関する90年代との構造変化をみると、
日本の占める比率がかなり低下している。原因として、船舶の大型化への対応への遅れがある。特に、最大水深岸壁建設の遅れが問題。
4.国際コンテナ戦略港湾の背景と目的
基幹航路維持拡大のためにハード・ソフト一体となった「集中」を実施することを目的として、2010年京浜港・阪神港を国際コンテナ戦略港湾に選定。2016年3月横浜川崎国際港湾株式会社が設立された。
5.国際コンテナ戦略港湾としての役割
スピーディかつ確実な輸送ネットワークの構築、世界最高水準のサービスの提供、グローバルサプライチェーンの強靭化が期待されている。
6.具体な取組
①競争力強化:南本牧ふ頭への利用者の集約と一体的運用の実現、横浜港内ターミナルの再編、DX,GX、省力化、安定稼働の実現
②集貨:安定的で競争力のある国内輸送網の確保、構内における円滑な接続、鉄道の活用
③創貨:ターミナル周辺へのコンテナ取扱機能強化と物流施設の立地促進
④環境:ターミナル施設における環境負荷低減、LNGバンカリング拠点形成
⑤DX:CONPASの導入
⑥コンテナ港湾の効率性指標:2020年横浜港が世界一
(5)(公財)日本海事センター企画研究部客員研究員 福山 秀夫
「中欧班列から見る中国の国際複合輸送の動向と日本が学ぶべき取組み」
1.欧州航路と中欧班列の動向
欧州航路の2022年の荷動きがコロナ前の2019年をかなり下回った、一方で、中欧班列は逆に増加し増勢を保っている。原因は、中露の好調な関係を反映したロシア、ベラルーシと中国間の荷動き急増がある。ロシア向けには東通道が、ベラルーシ、欧州向けには阿拉山口、ホルゴスルートが使用されるが、欧州ルートは、西1通道ではなく、西2通道のカスピ海ルートが活用されている。西3通道の「中国・キルギス・ウズベキスタン鉄道は2023年より開発開始。将来性とBCPを睨んで、民間企業の新ルート開発機運の高まりがあり、日通やマースクは、カスピ海ルートを開発している。
2.日本が学ぶべき取組み
世界トップ10の港湾中、中国港湾が7港を占め、上海港は13年連続首位。理由は、中国交通運輸部の海鉄連運政策(港湾と鉄道の現代化の推進)、ランドブリッジ推進政策(中欧班列の推進、中欧班列と周辺国の海運及び鉄道との接続)にある。中国の港湾と鉄道の現代化の歴史をみると、日本が何を学び、何をなすべきかわかる。「港湾の現代化」からは、①国際複合輸送=国内交通連携輸送(双循環の形成)、②国際コンテナの海陸連携輸送(SEA &RAIL)輸送の実現、③港湾の地域集貨力の強化 (海運センターの構築等)、④鉄道を中心とした内陸港(国際陸港)の建設、⑤鉄道・河川交通・トラック等の内陸輸送との連携を意識した港湾エリアの整備、⑥SEA & RAIL対応のスマート化、グリーン化ターミナルの建設を挙げられ、「鉄道の現代化」からは、①国際コンテナ輸送担当の専用組織設置、②客貨分線、③コンテナセンター駅の建設(港湾との連携、スマート化、グリーン化)、④鉄道駅中心の税務・商務・金融などを含む拠点港の建設、国際陸港の建設、⑤船社のコンテナ等の蔵置可能な鉄道デポの建設、⑥荷主の貨物集約化を可能にするコンテナ輸送サービスの形成、⑦ブロックトレインの編成などである。2000年代当初、港湾・鉄道の運営やインフラが、日本に遅れること40年の中国が、20年で後れを取りも出した現在、現代化で遅れている日本は、何年で取り戻すことができるか、それが問われている。
(6)パネルディスカッション:
モデレーター:流通経済大学流通情報学部長教授 物流科学研究所所長 矢野 裕児 様
1)犬井部長への質問と回答
①新型コロナ感染拡大、ウクライナ情勢等によりグローバルサプライチェーンのあり方が問われている。日本の荷主企業のグローバルサプライチェーンの見直しの動きを具体例も含めて教えていただきたい。
(犬井部長の回答)
ウクライナ情勢により、ロシアを供給拠点としていた企業は各国への直送に切り替えるケースや欧州域内で倉庫拠点移転の動きも見られる。新型コロナ感染拡大で、緊急時の代替え輸送ルートへの関心も高まっている。また、中国リスクの顕在化による、生産拠点のシフトを見直す企業も一部出てきている。日系企業は、平時は消費市場として中国での事業を伸ばしながら、中国とそれ以外の地域とでサプライチェーンを分けて整備する方向へ動き出している。
➁BCPとしての輸送サービスの造成とあるが、平常時からそれに備えた輸送ネットワーク構築をしているのか。具体例も含めて教えていただきたい。
(犬井部長の回答)
ホールディングス内の海運フォワーディング部が、米州、欧州、東アジア、南アジア、日本などの各リージョンを統括し、リージョン間の調整を図ることで速やかにBCPのための代替え輸送ルートの構築と提供がスピーディに行えるようになった。
具体的には、ここ数年では中国のコロナ感染による物流停滞へのソリューションとして、中国ロックダウンによる港湾エリアの物流停滞に対応して、中国内陸発の欧州向け貨物については中欧鉄道を組み入れた輸送サービスで対応、 中国国内トラック輸送の制約、車両・ドライバー不足に対するBCP対応ソリューション、内陸部の都市である重慶・成都から寧波港間及び欽州港間の鉄道輸送と各港から日本または東南アジア・欧州間の海上輸送を組み合わせたSEA&RAILサービスを造成し提供した。また、コロナ禍による海上輸送混乱で、特に混雑が激しかった米国発着の輸送のソリューションとして、メキシコ(マンザニーロ)経由Sea&Truckで、混雑する米国西岸の港湾を経由することなく、メキシコ経由としマンザニーロ港から、トラックで米国へ短期間で輸送。サンルイスポトシのNX自社拠点でデバンニングし、その後トラックに積み替えて輸送することも実施した。
2)山本駐日代表への質問と回答
①ダメージ耐性におけるデータの可視化、回復力としてアジリティが挙げられている。マースクはどのような施策を講じているのかを教えていただきたい。
「マースク・フロー」というデータの可視化サービスがあり、貨物の追跡、サプライチェーンに関わる複数の関係者が同じプラットフォームでリアルタイムの情報共有ができる。コミュニケーションもプラットフォーム上で行え、タイムリーな情報収集が可能。
「アジリティ」とは、ワーストケースを想定し、選択肢を多く準備している。従来船会社だったマースクの特長は「サービスの粒度の細かさ」。コンテナの動きをリアルタイムでコントロールしているため、状況に応じてスローダウンさせたり、スピードアップさせたり、自由に実行できる。また、本船荷役が迅速に行えるように積み付けプランから工夫し、仕向け地に着いた時にガントリークレーンが最初に持ち上げるのがその顧客のコンテナであるようにアレンジするサービスも提供している。
②日本の国際複合一貫輸送体制、国際コンテナ戦略港湾の政策についてどのように評価しているのかについて教えていただきたい。
(山本駐日代表の回答)
一般論として、船会社は効率的に集貨できるメリットを享受している。今後はマクロ環境の変化による「KPIの見直し」が必要になると感じている。この政策は基幹航路の維持・拡大を目的に、その運航頻度や輸送力を指標にしているが、「日本にとって基幹航路の意義」や「輸送力指標の妥当性」を問い直す局面にあると感じている。
「日本の国際複合一貫輸送体制」については、明確な役割を定義したうえで、ロジスティクス・ネットワークを築く投資を促すことが望ましい。例えば、空のロジを東京が、海のロジを横浜が担うことになれば、おのずとロジ環境は整理され最適化に動き出す。日本は、地方港も含め、それぞれの港の特長が不明確なために、顧客に案内しづらいという声は昔からある。最終仕向け地が、常陸那珂港がベストなのに、東京か横浜を指定されるなど、不明確性が残り、役割分担を明確にして特長を磨くことが、今後のインフラ整備に求められるのではないか。
3)人見社長への質問と回答
①集貨において、内航船との連携が非常に重要である。そのためのネットワーク構築としてどのような施策が重要と考えるかを教えていただきたい。
(人見社長の回答)
運賃が低廉である日韓フィーダーに対抗するための内航船舶の運航効率化や大型化や新造船の投入等への支援は重要である。また、2024年問題や荷主の環境意識への高まり等により、東北地方等各地から京浜港へ陸送されている貨物の内航船シフトが検討中であるが、内航船の輸送能力増強への支援は重要。さらに、内航船の運航効率化には、横浜港等国内ハブ港での母船との接続性向上が重要で、ターミナルの一体的な運営が効果的。南本牧ふ頭のターミナルでは複数船社による一体的な運営の進展により、内航船の沖待ち時間の短縮や横持ちコストの低減等の効果が出てきている。この取り組みを南本牧のターミナル以外にも拡げていくことが重要である。
運航効率化を阻害するバースホッピングへの対策としては、内航フィーダー貨物の横浜港内の異なるターミナル間ショートドレージ費用の支援が重要。地方港での作業員不足による荷役不能や沖待ちや着岸時間延長発生に対し、作業員の確保またはITや遠隔化技術の活用などを含め対応が必要である。また、京浜港内(横浜港↔東京港等)のコンテナ輸送は、港湾運送事業の範囲で内航船での輸送は不可。はしけ輸送を最優先としつつ、内航船の輸送コスト低減のために、規制緩和を柔軟に考える必要があるのではないか。
②強靭化という視点からみて、日本の港湾はどのような整備が必要と考えるかを教えていただきたい。
(人見社長の回答)
コンテナターミナルの施設整備は、コンテナ船の大型化、取り扱い貨物量の増大に対応できるよう、大水深高規格コンテナターミナルの整備、機能強化が急務である。また、大規模地震時の機能維持し、経済活動の継続可能な耐震性を確保することが重要である。
ターミナルの一体化利用や港湾における DX の活用を通じて、良好な労働環境と世界最高水準の生産性の両立を目指す必要がある。2050 年カーボンニュートラル・脱炭素化社会実現に向け、荷主や船社等に「選ばれる港」であり続けるためには、ターミナル施設においても環境負荷低減等、環境に配慮した取組が必要である。
横浜港では、太陽光発電設備の設置やLED照明の導入、2022年度からは本牧埠頭や大黒埠頭のコンテナターミナルで使用電力を、再生可能エネルギー由来の電力に切り替え、東京湾でのLNGバンカリング拠点形成事業を進め、電動RTGや船舶への陸上電力供給施設の導入に配慮した施設整備を検討している。
(7)視聴者からの質問と回答
視聴者からの質問を受け付けました。
(会場から)
①日本企業のスマート物流への取り組みの現状について、どのように評価しているか。海外との比較も含めて教えていただきたい。
犬井部長
スマート物流とは物流のデジタル化のことであるが、フォワーダー自ら業務の効率化を図りコストを削減する効果も期待できる。欧州系のフォワーダーは、デジタルサービスが進んでおり見積りから、Booking、B/L 発行、カーゴトレース、請求関連まで全て人的な介在無しで完結できるシステムが出来上がっている。日本でもフォワーダーのみならず、キャリアも同様のサービス構築を速やかに進めていくことになると思われる。
②日本においては、国際海上コンテナの鉄道輸送がほとんどなされていない。鉄道輸送を推進するうえで、どのような施策が重要と考えるかを教えていただきたい。
人見社長
盛岡や宇都宮など、既に京浜港との間で海上コンテナが輸送されている路線の輸送量を増加させることも極めて重要である。
デメリットとして、ダイヤによりスケジュールが固定されているため、荷主の手配(マーチャント)での輸送の場合、ディテンションチャージやターミナル/貨物駅間のショートドレージ費用等の余計なコストが掛かる。また、コンテナラウンドユース(CRU)を行うにあたっても荷主同士の直接の調整ではマッチングが難しい。こうした問題を解決するためには、外航船社が内陸の鉄道駅を自社CYとして扱い、鉄道ターミナル化を推進することが必要である。この取り組みは、お客様の利便性を高めるために、貨物や空コンテナの受け渡しができるのが理想である。そのためには、船社が一定の海上コンテナを蔵置するスペースの整備と海上コンテナを扱える荷役機器の整備を進めることが重要である。併せてブロックトレインの運行により安定した輸送スペースを確保し、外航船社に提供することが必要である。
③環境について、TCFD規則におけるScope3では、CO2排出量開示が将来的には求められるが、日通やマースクでは、開示サービスを行う予定はあるか。
犬井部長
欧米の企業が進んでいるため、情報収集し、参考にしながら、進めていくことを会社として考えている。
山本駐日代表
昨年1月に2040年にネットゼロを目指し、既にサービス開始している。エコデリバリーというバイオ燃料で輸配送するサービスを展開中。2030年までに30%の海上貨物、25%の陸上貨物を、脱炭素・低炭素で輸送することを目指している。
(Zoomから)
①強靭化に向けて、BCPを作成する際に、荷主企業とどのような連携をしているか教えていただきたい。
山本駐日代表
主に長期契約の顧客を中心に、ビジネスレビューでの気づきなどから、提案している。具体的な方法は、マースクの「サプライチェーン・レジリエンス・モデル」を用いて、顧客のサプライチェーンのマッピング、外部要因などに依存度が高い・脆弱性が高いポイントの特定、有事を想定するシナリオプランニング、そしてそのシナリオごとの対応策とモニタリング方法の合意など、まさに顧客と連携しながら策定している。
最後に、矢野モデレーターが、基幹航路維持に関する問題提起として、港湾の「良港の評価基準」が、取扱量などの「量」の基準となっているが、「質」への転換について回答を求めたところ以下の回答がありました。
➀ 飴野教授
港湾の活用については、「量」による競争ではなく、「質」の競走に変わる必要がある。CNP、ハブを持つ意味など、港湾の存在意義を基準にするようなものであってよいのではないか。質を追求し続ける努力が肝要ではないか。
② 犬井部長
複合輸送の役割分担として、成田は貨物、東京は旅客、または、成田のアジアハブ化、横浜港ハブ化、ドレージの内陸デポの必要性などがある。2024年問題を目前にドレージの問題がシビアになっているため、港湾の役割分担・質について、検討する良い時期である。
③ 山本駐日代表
基幹航路は、日本に寄港する理屈は段々なくなってきている。脱炭素化が港湾の基準となれば、日本港湾の強みも発揮でき、寄港増につながる可能性が出てくる。大きい船でなくて小さい船でもよい。日本の港湾を、上海港を起点とするフィーダー港として位置づけることが船のエネルギー効率がよい。役割分担をして選ばれる港として、質的な指標として、グリーン化も含め検討すべき。
④ 人見社長
量の基準も必要だが、質の基準も重要。横浜港は、世界銀行、IHS Markitなどがまとめたランキング(2020年)で世界の主要350港のうち、最も効率性・生産性の高い高品質港に選ばれた。スループットが少ないから競争力がないとは言えないと考える。京浜港ハブという目標だが、現在、東京港が入っていないが、今後、京浜港ハブを目指すべきと考える。
●まとめ:最後に、矢野モデレーターから、
・最近は、平常時というのはなく、異常時という事態が常に発生するという状態となっており、世界中の企業関係者が供給体制の再構築を迫られており、国際物流の強靭化・持続可能性の構築が重要となっている。
・今後の基幹航路寄港における日本港湾の位置付けを考慮する場合は、量だけでなく質の問題も含めて検討すべきではないか、
・サプライチェーンの強靭化のためには、アジリティがポイントになり、多様な選択肢をそろえること、港湾の付加価値をつけることが重要であり、船社・フォワーダー・荷主等の関係者の協力が不可欠である、
との総括コメントがなされました。
以上
(注)
本結果概要は事務局の責任で編集しているものであり、発言の取り上げの不足やニュアンスの違い等正確さを欠く場合がありますので、正確な内容については必ず画像と音声をご確認頂くようにお願いします。