第5回JMC海事振興セミナー
「船荷証券の電子化にともなう法整備と利用促進」
を開催しました。
開催概要 | 昨年、デジタル社会形成基本法が施行され今年6月には「規制改革実施計画」及び「デジタル社会の実現に向けた重点計画」が策定されるなど、船荷証券の電子化に向けた制度設計等が進められている。 一方、国連国際商取引委員会でも、電子的移転可能記録モデル法(MLETR)が2017年に採択されるなど、国際社会においてもデジタル社会に対応した法整備の必要性の認識が高まっている。 これらの動向を踏まえ、(公社)商事法務研究会は「商事法の電子化に関する研究会」(座長:東京大学 藤田友敬教授)を立ち上げ、2021年4月から2022年3月まで10回にわたり同研究会を開催し、報告書を公表した。また、同研究会での成果を踏まえ、法務省は2022年2月、商法の船荷証券に関する規定等の見直しを行うため、法制審議会第194回総会に対し諮問し、商法(船荷証券等関係)部会(部会長:東京大学 藤田友敬教授)が設置され、審議が進められている。 今回は、海運・物流業界の法務担当者、弁護士事務所関係者等の専門家を対象として、国における審議内容等の情報共有を行うとともに、電子船荷証券の抱える法的問題点の確認及び利用促進に向けた課題の解決策の探求を行うこととしたい。 |
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日時 | 2022年12月9日(金) 14:00 ~ 16:00 |
開催方法 | オンライン配信(Zoomウェビナー) |
開会挨拶 | |
ご講演 | |
ご講演 | |
ご講演 | |
Q&Aセッション | |
閉会挨拶 | |
セミナー動画 (通し) |
https://www.youtube.com/watch?v=hhWO9ZeWYjw |
第5回JMC海事振興セミナーの開催結果(概要)
1. 開催概要
令和4年12月9日、東京都千代田区麹町の海事センタービル4階会議室において、第5回JMC海事振興セミナーを開催いたしました。
当日は「船荷証券の電子化にともなう法整備と利用促進」と題して、ZOOMを活用したオンライン配信により実施いたしました。
多くの視聴者から参加登録をいただき、盛況裏に開催することができました。
2.講演内容
(1)「我が国における船荷証券電子化に関する法整備の意義」(公益財団法人日本海事センター上席研究員中村秀之)
我が国における船荷証券電子化の法整備の必要性・重要性等について説明を行いました。
(2)「船荷証券の電子化に関する検討状況」(法務省民事局参事官渡辺諭氏)
デジタル社会に対応した法整備の必要性について、国際動向の加速化や国際海上運送に関する実情調査の結果、さらには商事法の電子化に関する研究会での議論などの説明がありました。
そのうえで、法制審議会の部会として、検討をするに当たっての重要な観点として「国際的な調和」と「技術的な中立性」があり、これを踏まえて、具体的な制度設計をするに当たっての主な論点として、
①電子船荷証券記録の法的位置づけと類型
②電子船荷証券記録の発行等
③電子船荷証券記録の技術的要件等
④電子船荷証券記録と船荷証券の転換
⑤電子船荷証券記録の譲渡
⑥電子船荷証券記録の効力
⑦その他
の紹介とそれぞれの論点に関する法制審議会での検討状況が説明されました。
その後、法制審議会商法部会の今後の展望についても説明がありました。我が国における船荷証券電子化に向けた法整備が有する意義等について説明がありました。
(3)「実務家の視点から船荷証券の電子化を考える」(弁護士法人山口総合法律事務所弁護士山口修司氏)
まず船荷証券の電子化の必要性に関して、
①有価証券である船荷証券の遅延
②資金回収の遅延
③通関手続きの煩雑性
④書面の電子化の潮流
について説明がありました。
そのうえで、電子船荷証券法制化の方向と各論点として、
①有価証券性
②電子船荷証券使用の同意
③電子船荷証券と紙の船荷証券の転換
④署名
⑤国際海上物品運送法やヘーグ・ヴィスビー・ルールズ等の適用
について説明が行われました。
さらに、今後の検討事項として、
①複合運送状の規定の必要性
②強制執行のやり方
③その他
について説明が行われました。
3.Q&Aセッション
モデレーター(弁護士法人阿部・阪田法律事務所池山弁護士)より報告者への質問事項があり、それぞれ意見交換がなされました。
質問(1)
現行法で電子船荷証券は有価証券やモノではなく、従って占有できないといったことが議論を複雑なものにしていると理解した。そうであるならば、今回作ろうとしている新たな法律で、電子船荷証券が商法の船荷証券に関する規定やあるいは民法の有価証券の規定の適用される船荷証券とみなすと決めてしまうほうがシンプルではないか。それが難しいのはなぜか。
【渡辺様のご回答】
我が国の法体系上、「所有権」は「物」を対象とするものであり、「物」は「有体物」をいうとされている。電子データは「物」ではないため、それに対する「所有」という概念をそのまま用いることは理論的に難しい。例えば紙の船荷証券への強制執行のような動産の強制執行では執行官が物を強制的に取り上げるということができるが、電磁的記録を取り上げることはおそらく難しい。電子船荷証券記録について紙の船荷証券を所有・使用等している状態と同様の法状態をどのように作りこむかという点は、今まさに法制審で議論しているところである。
【山口様のご回答】
電子船荷証券と呼ばれるものはあくまで電子船荷証券記録であり、モノではない。大陸法を採る我が国では法制上、全体的にバランスを取って進めていくためにはモノあるいはモノと同等だと言い切らなければならないが、その点に難しさがある。いわゆるコモンローの国、特にイギリスは電子船荷証券記録について占有まで認め、あとは従来の判例に基づいて裁判所が現実妥当性のある判決をしていけばよいとしているが、我が国は逆であって、法制度の準備がない限り裁判所は判決や決定を下すことができない。大陸法に共通する問題である。
質問(2)
電子船荷証券を使用するにあたり、現時点では最初の当事者である荷受人の同意は不要とする方向だと伺った。他方、今ある電子船荷証券のサービスを使い始めようとすると、関係者全員の同意が必要という考え方が多いように思われるが、どう考えるか。これと関連するが、電子船荷証券から流通の途中で紙の船荷証券転換を認めるかについては見解が対立している状況と伺った。船荷証券を所持する荷主の側と発行する運送人の側で利害の対立する問題であると考えるが、荷主と運送人という両方の側面を持つフォワーダーなどは実務的に難しい問題に直面するのではないか。
【山口様のご回答】
一つ目の電子船荷証券の発行に当たり誰の同意が必要なのかという点について。荷受人の同意の問題は売買契約で解決してもらえば済むと考えている。常に荷受人の同意が必要とすると運送人としても電子船荷証券の発行が難しくなり、最終的には使用を阻害する要因となりうる。立法段階としては船荷証券の契約当事者である運送契約の当事者である運送人と荷送人の同意があればよいのではないかと考えている。二つ目の質問である転換権は運送人と荷受人の利害が対立する点である。一方で運送人からすれば紙の船荷証券を届ける方法・リスクという問題が、他方で荷受人からすれば電子船荷証券が法制化されていない、あるいは通関に必ず紙の船荷証券が必要な場合があるといった問題が考えられる。この点については、荷受人・持参人には売買契約に入るか否かについて選択権があることから、運送人に転換請求があったときには紙の船荷証券を発行しなければならないという義務を課す必要はないようにも思われる。特にフレイトフォワーダーからすると、船荷証券の準拠法によっては、自らは実運送人に対する転換権を持たないにもかかわらず、荷主からは転換請求を受けるという大変難しい立場になる可能性もあるため、フレイトフォワーダーとしては義務化でない解決が望ましいであろう。ただ技術的には可能であることから、運送人の同意によって認めるといった解決がなされていくのではないかと考えている。
【渡辺様のご回答】
荷受人の最終的な承諾が得られないことや運送人が紙への転換を拒否することはあまりないように思われる。ただ、荷受人の承諾を法律上の要件とすると、実務慣行に様々な影響が及びかねないことや、事前に承諾を取っておかないと無効になるのかといった話にもなってしまう。利用の促進を妨げる必要のない要件を入れないよう法整備を進めている。転換については利害対立があるためどれがいいと当方からは申し上げにくいが、運送人が容易に対応しうる場合においても拒否することがあるかという点もあるし、転換請求権・義務を認めずともそういった場合においては信義則上のルールなどの形で対応する可能性もあると考えられ、議論されているところである。
4.オンラインによる一般からの質問
質問(1)
中村研究員の資料14頁にて「バーチャルなモノが、「モノ」であるかのような機能を担えるようにする革新的な法律になる可能性」があるとご説明がございました。そして、渡辺参事官の資料14頁で「それ自体を財産権とすることは難しい」とご説明がありました。一方で、「電子船荷証券記録を使用、収益及び処分する権利とする考え方」も示されて議論されたと聞き及んでおります。その場合電子船荷証券において財産権を立法で措定することになりますでしょうか。極端の例にて的外れかもしれませんが、たとえば(立法的整備はされていないものの)判例で慣習法上の物権として認められている温泉権との比較を愚考して質問申し上げました。
【渡辺様のご回答】
つい先日の法制審で議論されたホットな論点である。こういった権利を観念して譲渡の対象とするならば財産権ということになり、強制執行の対象としていくことも含めて考えられる。相当チャレンジングな考え方で、今後どうなるかはこれからの議論になると考える。
【山口様のご回答】
新たな権利を認めるというのは法制上難しい話かと思う。現段階においては抽象的な、しかも電子空間における権利などを総合的に構築するような概念も出来上がっていない。ほとんどの問題点は今までの法体系の中で解決可能であって、難しい点である強制執行も現実的にはあまり起こりえないため、そのために新たな概念を作り上げることは本末転倒であるようにも思われる。
質問(2)
電子船荷証券が法的に「物」か否かは別にして、強制執行等引渡し時の権利(質権?)に係るトラブルにおいて、航空運送状や海上運送状の観点では、どのように法的に解釈し、乗り越えられているのでしょうか?法の規定があるに越した事はありませんが、年に何万件もの運送を取り扱う総合商社において、他商社も含め何十年以上もトラブルが現実に起きた事例を聞いた事が無い事で以って、この議論が止まってしまう、時間が余計に掛かってしまう事は誰も本意では無いと思います。山口弁護士がおっしゃる「判例を先に作っていく」という柔軟性は、日本の法曹界に無いものでしょうか?
【山口様のご回答】
運送状は債権(引渡請求権)の差し押さえという形で強制執行が可能であると考えている。有価証券である船荷証券は動産の執行という形で行われると考えられるが、このような事例はあまりなかったと想定されるため、電子船荷証券記録についても執行という要請が本当にあるかは疑問である。大陸法では予想される法的事案について条文を置くことが要請されていることから、この点を考慮しているが、実務において問題になって大きなトラブルに発展するとは考えていない。
【渡辺様のご回答】
運送状と異なり、電子船荷証券記録には船荷証券の効力と同じものをつけていくことから、根本的な違いは避けられないと考えている。実務的に大きな問題が生じるとは考えていないが、例えば強制執行の方法が変わってくるため、この点の検討を放棄することは我が国では基本的には認められない。他方で実務的に大きな問題にならないであろうこの問題がネックとなって法整備に向けた流れが止まるということではなく、ほかにも数多くある論点と並行して議論しており、許される限りで真剣な検討をしていきたいと考えている。
以上
(注)
この結果概要は速報性を重視し、事務局の責任で編集しているものであり、発言の取り上げ不足やニュアンスの違い等がある場合があります。このため、正確な内容については必ず画像及び音声をご確認いただくようにお願いします。