JMC海事振興セミナー

Seminar

第11回JMC海事振興セミナー
「東アジアにおけるサプライチェーンの拡大と国際コンテナ港湾の変貌             ~我が国の国際コンテナ港湾の戦略と展開を考える~」

開催概要  東アジア(※)のGDPのシェアは世界の3割を占めるようになり、米国やEUのシェアを超える経済圏へ成長している。その中で、経済社会を支えるコンテナ物流は、中国をはじめ、取扱量上位の港湾や国・地域が東アジアに集中しており、東アジア域内や東アジア発着を合計すると6割を超えるまでになってきている。このような状況を背景として、東アジア諸国のコンテナ港湾は大規模化し、世界の上位港湾を占める状況となっている。
 一方、日本のコンテナ港湾の約8割を占める5大港ではこの10年、コンテナ物流量が伸びていない。同時に基幹航路が減少傾向である。輸出は生産拠点のコンテナが少ないこと、輸入に関しては少子高齢化が進行するなど今後大きな増加が見込めない。
 このような中で、日本のサプライチェーンの維持拡大とコンテナ港湾はどうあるべきか。
 今回のセミナーでは、日本港湾経済学会の会長から、東アジアの国際コンテナ港湾の変貌の動向をご説明いただいた上で、国土交通省港湾局幹部とグローバルな港湾間競争に取組む阪神国際港湾株式会社からその取組について説明頂き、我が国の国際コンテナ港湾の今後の在り方について意見交換することとしたい。

(※)ここでは日本・中国・韓国・台湾・ベトナム・シンガポール・マレーシア・タイ・フィリピン・インドネシア・香港・ブルネイ・ラオス・カンボジア・ミャンマーの15か国・地域を指す
日時 2024年9月13日(金) 14:00 ~ 16:30
開催方法 オンライン(Zoomウェビナー) 
場所 海事センタービル4階会議室
(〒102-0083 東京都千代田区麹町4-5)
開会挨拶

(公財)日本海事センター 会長 宿利 正史 

開会挨拶

開会挨拶

講演

日本港湾経済学会会長/九州国際大学現代ビジネス学部地域経済学科教授 男澤 智治 氏

講演資料

「東アジアのサプライチェーンの拡大と国際コンテナ港湾の変貌」

略歴

事例紹介
講演

国土交通省 港湾局 港湾経済課長 澤田 孝秋 氏

講演資料

「国際コンテナ戦略港湾の機能強化策について」

略歴

講演

阪神国際港湾(株)代表取締役社長 木戸 貴文 氏

講演資料

「阪神港における基幹航路の維持・拡大への取り組み」

略歴

パネルディスカッション

【パネルディスカッション】        
モデレーター : 男澤 智治 氏 
パネリスト  :  澤田 孝秋 氏 木戸 貴文 氏 福山 秀夫
【総括コメント】 男澤 智治 氏 

パネルディスカッション

閉会挨拶

(公財)日本海事センター 理事長 平垣内 久隆

閉会挨拶

閉会挨拶

セミナー動画
(通し)
https://www.youtube.com/watch?v=b5f5Ccp8PQc

当日のプログラム

第11回JMC海事振興セミナーの開催結果(概要)

1.開催の概要


 令和6年9月13日、東京都千代田区麹町の海事センタービル4階会議室において、第11回JMC海事振興セミナーを開催した。

 当日は、「東アジアにおけるサプライチェーンの拡大と国際コンテナ港湾の変貌 ~我が国の国際コンテナ港湾の戦略と展開を考える~」と題して、ZOOMを活用したオンライン配信を実施し、400名を超える視聴者から参加登録をいただき、盛況裡の開催となった。



2.講演内容


【開会挨拶】 (公財)日本海事センター 会長 宿利 正史 

 

◎「東アジアのサプライチェーンの拡大と国際コンテナ港湾の変貌」 

日本港湾経済学会会長/九州国際大学現代ビジネス学部地域経済学科教授 男澤 智治 氏 


  新型コロナウイルス、ロシアのウクライナ侵攻、スエズ運河でのフーシ派の攻撃、パナマ運河の水不足などで、荷主企業もサプライチェーンの見直しを迫られており、東アジアの国際物流ネットワークに変化が生じている。

 また、東アジア経済は名目GDPで世界の3割を占めるようになり、米国やEUのシェアを超えた経済圏へと成長している。海上コンテナ物流は増加しており、東アジア諸国のコンテナ港湾は大規模化し世界の上位港湾を占めている。

 港湾は、「物流の時代」から「サプライチェーンの時代」に移行し、企業の広範なロジスティクスサービスを取り込むことが重要となっている。釜山新港やシンガポール港、また、近年では中国の欽州港が成長している。

 一方、日本コンテナ港湾の約8割を占める5大港ではこの15年間、コンテナ物流量が伸びず、基幹航路が減少傾向である。この状況下で、日本のグローバル・サプライチェーンの維持とコンテナ港湾のあり方を考えた時、東アジア諸国で展開されている港湾政策を参考にすると、日本港湾が学ぶべき視点として9点をあげることができる。


 1)東アジアの経済・貿易の発展を見据えた港湾戦略

 2)東アジアと北米を結ぶトランシップ貨物の誘致戦略

 3)高付加価値のロジスティクス拠点の整備

 4)東アジア諸国の港湾とのコネクティビティ(欽州港の事例)

 5)集貨に係る内陸との鉄道輸送の整備

 6)港湾のグリーン化・DX化への取組

 7)海外港湾との連携によるグリーン海運回廊構築

 8)生産の日本回帰による貨物への対応

 9)自然災害や地政学的リスクに伴う強靭化への対応


 さらに、まとめとして、以下の3項目を提示する。


①東アジアと連携した「ロジスティクス型コンテナ港湾」への脱皮

②サプライチェーン強靭化・最適化に貢献できる港湾

③カーボンニュートラルに向けたサプライチェーン全体のグリーン化に貢献できる港湾

事例として、釜山港、シンガポール港、レムチャバン港、ポートクラン港、欽州港、カイメップ・チーバイ港を挙げる。これらの実現のためには、荷主も含めた官民の連携が重要である。



◎【事例紹介】「今注目を浴びている中国・欽州港とベトナム・カイメップチーバイ港における取組と物流網の変貌」 

(公財)日本海事センター 企画研究部客員研究員 福山 秀夫 


 最初に、中国欽州港の現況については、東アジア諸国の港湾とのコネクティビティを核とした集貨戦略を基本に据えた港湾戦略と貨物量急増を支える中国最先端の自動化ターミナルについて説明した。

 次に、ベトナムのカイメップ・チーバイ港については、船社と地元の港湾運営会社との協力がうまくいき、ホーチミン港の代替港として巨大港へと急発展してゆく集貨戦略について説明した。

 男澤、福山両氏は、東アジアの港湾の巨大港化への展開について、スピード感・規模感等の日本との相違について述べたのに対し、日本側の港湾事情については、下記の通り澤田氏、木戸氏の2人の登壇者が説明した。



◎「国際コンテナ戦略港湾の機能強化策について」 

国土交通省 港湾局 港湾経済課長 澤田 孝秋 氏 


 最初に、港湾・海運を取り巻く状況として、世界各地域の港湾におけるコンテナ取扱個数の推移、コンテナ船の大型化と我が国港湾の最大水深岸壁の推移、アジア主要港と我が国港湾の国際基幹航路の寄港回数の比較、新型コロナ/パナマ運河の渇水等によるサプライチェーンへの影響、国際フィーダー航路による北米東岸航路への集貨とリードタイムの変化、基幹航路の重要性等について述べた。次いで、国際コンテナ戦略港湾の機能強化策に関し、「新しい国際コンテナ戦略港湾政策とりまとめ」の概要を述べ、「集貨」、「創貨」、「競争力強化」の三本柱の取組の具体例として、以下を紹介した。

【集貨】

・国際フィーダー航路網の拡大に向けた取組

・アジアからの国際トランシップ貨物の積替実証輸送の実施

・コンテナターミナルの一体利用の促進

【創貨】

・複合機能を有する物流施設の立地支援及び物流手続きの円滑化

【競争力強化】

・国際コンテナ戦略港湾における大深水バースの整備

・「ヒトを支援するAIターミナル」の実現に向けた取組

・カーボンニュートラルポートの形成

・LNGバンカリング拠点の形成

 まとめとして、国際基幹航路の喪失はサプライチェーンを脆弱にするため、国際コンテナ戦略港湾政策を推進し国際基幹航路の維持・拡大に必要な貨物量を確保することが必要であること、また、戦略港湾を発着する直航サービスを利用するメリットを踏まえ荷主企業が戦略港湾を利用することが必要な貨物量の確保につながることを指摘し、国、港湾運営会社、港湾管理者のみならず荷主企業・物流企業が協力しオールジャパンでの取組みを必要とした。



◎「阪神港における基幹航路の維持・拡大への取り組み」 

阪神国際港湾(株)代表取締役社長 木戸 貴文 氏 


 アジア近隣国諸港の躍進とコンテナ船の大型化、船社の寡占化が進む中、基幹航路母船寄港数の減少が我が国の経済安全保障上でのリスクであることを説明し、その対応として、船社目線による港湾の寄港地選定のポイントを踏まえ、阪神港の取り組みとして、国際フィーダーネットワークの拡充、国内地方港との連携による「集貨」と、本船大型化に対応するターミナルの整備と一体運用の促進、CNPの推進を説明した。

世界のコンテナターミナルと国内港湾の比較において、まず、コンテナ取扱量推移1980年、2010年、2022年比較、さらに、シンガポール・釜山港との貨物量比較を行い1港への集約が、釜山7割、日本は神戸・大阪・名古屋・横浜・東京5港の合計で8割だが最大の東京港でも3割に満たない分散型であることを指摘した。また、ハブ港機能=トランシップ貨物比率が、シンガポール8割、釜山6割、日本ほぼゼロである現状を説明。日本貨物の釜山港トランシップ依存度が内航フィーダー経由で国内主力港を利用するものに比べて高まってきている現状を説明し、問題として指摘した。

 また、船社による船型の大型化の加速とそれに伴う船型、母船寄港地の絞り込み、ハブを含む拠点港の位置づけの見直し(ハブ&スポークの深化)が急速に進んでいることを示し、さらに、船社による寄港地選択のポイントとして、➀貨物量、➁費用対効果(ターミナル料金、着岸バースのAvailability(可用性)など)、➂環境対応・脱炭素化対応を挙げた。

 これに対する阪神港の取り組みとして、次の5点を挙げた。


➀内航ネットワーク拡大に向けた地元港との連携インセンティブ(貨物輸送支援)

➁重要インフラとしての内航ネットワークの拡大と強化

➂神戸港ポートアイランド2期地区(KICT、PC18)、大阪港夢洲地区の整備・GC大型化

④水素燃料を使ったRTG実証事業

⑤LNGバンカリング事業への出資


【パネルディスカッション】 


モデレーター : 男澤 智治 氏 

パネリスト : 澤田 孝秋 氏 木戸 貴文 氏 福山 秀夫 


◎モデレーターから澤田様への質問1

東アジアの主要港湾は国家戦略の下、世界的な需要の取り込みを行ってきたが、なぜ日本はできなかったのか、原因についてどのようにお考えか伺いたい。


(回答)

 戦後の占領統治下において港湾に対する国の関与に大きな制約がかかり、それぞれの地方自治体が主体となって各地の港湾の整備が進んだ結果、細長い国土に都市圏や産業拠点が広く散在するわが国の国土構造を前提に、それぞれ特色のある港湾が出来上がり、日本全体の視点からの港湾施策を打ち出すことが他国に比べて出遅れてしまった。

 一方で、海上輸送におけるコンテナ需要は増大し、コンテナ船に関わる世界情勢は船舶の大型化やアライアンス再編など目まぐるしく変化し、寄港地の選択と貨物の集中が行われてきており、このような情勢の変化に対し、世界的な需要を取り込むべく国策として国際ハブ港の形成に注力したのがシンガポールや韓国である。 

この遅れを取り戻すべく、国が主体的になった取組が、背後地に大規模な経済圏を有しそれ自体で大規模な貨物需要を有する京浜港・阪神港を国内地方港と基幹航路の結節点として位置づけて集中的に施策を実施することとしたのが国際コンテナ戦略港湾政策である。

日本は出遅れてしまったが、コロナ禍の混乱を始め、パナマ運河の運航制限や紅海危機などの中、国が主体となって先を見据えた戦略を進め、日本の港湾の強靱化を図って参りたい。


◎澤田様への質問2

港湾整備5か年計画は需要量を基に目先のハード整備のみを重視し、世界を見据えた港湾マーケチィング戦略が欠如していたのではないかと思うが、いかがか。


(回答)

 日本では、基幹航路の維持・拡大に必要なハード面の整備が重点的に行われてきた一方で、ソフト面での取組は十分にできていなかったことは否定できない。今後はソフト面の取り組みについても戦略的に取り組むよう、今年の2月に公表した「新しい国際コンテナ戦略港湾政策の進め方検討委員会最終とりまとめ」において、国際基幹航路を確保によるサプライチェーンの強靱化と企業のサプライチェーンマネジメントに貢献するという政策目的のもと、国際トランシップ貨物の各種の取り扱い手続きの円滑化に対応しつつ、アジア等からの広域集貨への取組み、港湾を取り巻く国際環境等を直視した戦略的政策や港湾のGX化への取組、各ユーザーの利便性向上のための港全体の一体利用の計画を推進していくなど、船社や荷主に選ばれる競争力のある国際コンテナ戦略港湾の実現を目指していきたい。

一方で、大型化する船舶に対応するためのハード・ソフト両面の取り組みの有機的連携による質の高い港湾政策を進めていきたい。


◎モデレーターから木戸様への質問1

船社による寄港地選択のポイントで最も重要なのは、「貨物量」かと思うが、阪神港の輸出コンテナは、2008年から2023年で1.07倍である。今後、どのような手段で貨物の集貨ができるかお聞きしたい。また、利用者から選ばれる港湾としての取組みをお聞きしたい。


(回答)

 日本全体の輸出入貨物量は減少していないが、大型母船が寄港する5大港での取扱量が減少している。これは、母船の大型化による寄港費用の増大に見合った貨物取扱量が得られないことを意味し、船社が日本の5大港を母船の寄港候補地から外すという動きにつながってきている。

これに対して、阪神港では主要地元港と連携し、荷主にインセンティブを設定するなど、まず、第一に内航船を使って阪神港に貨物を集中させる方策を取っており、徐々に効果は出てきている。

 利用者から選ばれる港湾の取組としては、港湾作業の効率化、DX化、最重要なグリーン化を通じて、多くの外航船社が前倒しで推進している完全脱炭素化達成を後押しする施策も推進している。具体的には、水素燃料に対応したエンジンを用いたRTGの実証事業の推進、内航コンテナ船の電動化に対応したバッテリー充電設備の整備、過渡期の船舶燃料としてのLNGのバンカリング船の建造など、将来に向けた取り組みである。これらの動きは、民間として進められる範囲はあるが、国や自治体など行政レベルと共同で取り組んでいくことが必要である。



◎モデレーターから木戸様への質問2

阪神国際港湾㈱が発足して10年が経過しましたが、その間、東アジア諸国の巨大港湾と比較して遅れている点などあったら教えて下さい。


(回答)

 大型船の受け入れが可能で、年間を通して24時間稼働する大規模高規格コンテナターミナルが世界の港湾ではスタンダード化しており、その多くが自動化を進めている。日本でも限定的なターミナルのみへの寄港が物理的に可能な最大船型である13000~15000TEU型が数多くの航路に就航可能な汎用性のある船型になってきている。アジア各国の主力港では20000TEUを超える超大型船の受け入れが可能となっている現状を見れば、港湾整備の観点でもアジア諸港に劣後していると言える。

コンテナ船社は本船を大型化することでコンテナ1本あたりの輸送コストを削減し、更に費用対効果を高めるために大型母船の寄港地を絞り込む傾向が一層強まっており、世界では15000TEUを超える超大型船が、現在400隻程度が就航し、2026年には600隻以上に増えることを考えると、日本も港湾整備を急ぐ必要がある。


◎モデレーターから福山への質問1

欽州港では、内陸との鉄道輸送を重視し、鉄道による安定輸送を実現しています。日本における主要港と内陸部を結ぶ鉄道輸送などのコネクティビティへの視点による実践は乏しいと思われますが、どのようにお考えでしょうか。


(回答)

 日本の鉄道においては、国際輸送と国内輸送が分かれている。国際コンテナを鉄道で輸送する体制ができていないため、国際コンテナを輸送する体制を一から構築する全体計画の作成が重要である。中国が国際コンテナを輸送する体制を一から構築し始めたのは、2003年で、20年たった現在、世界トップレベルの国際コンテナの鉄道コンテナ輸送体制を構築している。日本も最初に取り組むのは、全国の国際コンテナ輸送を管理する専用鉄道会社を設立し、京浜港や阪神港や伊勢湾港や北部九州港とどの都市や地域を接続するのか検討し、その上で、鉄道拠点駅を設置することが重要であり、国交省と各拠点のニーズに基づき集貨型ネットワークを形成することが必要になる。いつまでも国際貨物の鉄道輸送を、狭い国土の日本には適さないという不合理な考えは捨てるべきで、ネットワーク型で物事を考える時代が到来している。



◎モデレーターから福山への質問2

カイメップ・チーバイ港は、南部経済回廊の整備に伴いホーチミン・プノンペン・バンコク・ダウェイと結ばれている。港湾は港だけで完結するものではなく直背後圏とのアクセスが重要だと思うが、日本でもマルチモーダルな連携についてどのように取組むべきだと思われるか。東アジアの港湾政策と比較してお答え願う。


(回答) 

 欧州航路と北米航路の基幹航路の視点とアジア域内航路の視点の2つの視点が重要である。シンガポール港や近隣のポートクラン港、タンジュンペレパス港においては、欧州と北米との中間点にあり、現在のような世界海運の積み替え拠点港となったが、後背地を有しているレムチャバン港は、周辺諸国の経済発展とともに、成長に陰りが出てきており、カイメップ・チーバイ港の地理的優位さから、その後背地として取り込まれようとしている。メコンデルタ地域がその地理的特性を生かしバージ輸送が発展している間はそれも比較優位にあるが、鉄道コンテナ輸送が完備されてくると、カイメップ・チーバイ港やシアヌークビル港が比較優位に立つであろうことは、容易に想像できる。中国からの中越班列、中老班列が、バンコクやクアラルンプールやポートクラン港やシンガポール港までつながるようになれば、シンガポール港の比較優位が現在より一層高まることが予想され、港湾間競争、鉄道拠点間競争、海運の港湾進出競争は一層激化し、東アジア地域は選択可能性の高い自由な物流ネットワーク地域となると考えられる。そこに日本の港湾が積極的に参加する条件は、自国の貨物と他国の貨物を組み合わせて輸送するための拠点港として、京浜港や阪神港等をネットワーク上に位置付けることが可能な東アジアの拠点港との連携の強化である。

日本国内も東アジアの諸港湾の貨物だけでなく中央アジア諸国の貨物をも迅速に処理できる体制、自国の貨物も迅速に処理できるマルチモーダルな連携体制を構築することが重要である。そのための官民の協力が大変重要なカギになると考えている。


◎会場からの質問

1)木戸様へ:貴社は、カンボジア王国シハヌークビル港湾公社に議決権株式の2.5%の出資をされていますが、同港以外に具体的に進めておられるアジア諸国港湾との業務提携や出資の案件、もしくは海外進出に関して将来的なビジョンなどご検討されているか。さらに、将来的には日本を代表するGTOへの展開など考えているか、また、自然災害、地政学的なリスクに対応するため、船社、フォワーダー、海外港湾、海外鉄道との一層の連携をどう考えているか。


(回答)

 シハヌークビル港は、ODAにより新たなコンテナターミナルを整備、令和8年供用開始に向けて整備を進めている。日本側株主2社(上組殿・当社)からの提案をシハヌークビル港湾公社(PAS)が受ける形で、オペレーション、技術面に関する研修受入れを行った。

現時点ではPASに続く具体的な出資案件は無い。当社はターミナルのオペレーターではなく、直接ターミナル運営まで関与するポートオーソリティという立場ではないので、海外案件への関わり方も限定的なものになると考えている。

ただし、投資することによって当社の社員が海外で先行する近代化オペレーションを学ぶ機会を得る案件があれば検討しつつ、今後も海外インフラ投資における当社の役割を模索したい。

自然災害や地政学的なリスクが高まっていることについては、代替も含めて輸送ルートを決めるのは船社やフォワーダーであり、我々は港湾運営会社として荷役機器を中心としたターミナルの整備などインフラ面での整備と船社サービスの誘致を進めることが第一と考える。海外の港湾との連携については競合する立場でもあり、グリーン回廊などの協定への参画以外では連携を強化できるケースは稀だと考える。一方で、海外セールス活動を強化し、船社、港湾管理者、港湾運営会社等への訪問、情報交換や人脈作りには注力したい。



2)澤田様へ:

①釜山港に勝つための方策について明確にしてほしい。


(回答)

 ありとあらゆる方策を講じて、釜山港に近づくことが重要。例えば、日本海側の港湾にとっては釜山港経由の輸送の利便性が高いと捉える向きもあるなかで、国際フィーダー航路で京阪神港に貨物を集中させることが肝要と思い取り組んでいる。また、コストの低減やカーボンニュートラルに取り組む必要もあると考えている。


②Sea & Rail体制がなぜ日本でできないのか、「新しい国際コンテナ戦略港湾政策の進め方検討委員会最終とりまとめ」でも非現実的と述べられた背景について質問したい。


(回答)

 日本の鉄道におけるコンテナ輸送体制はゴトコン(12F)が基本であり、20F、40Fの国際コンテナについては、輸送可能であるが、トンネルなどにより輸送可能区間に制限があることや、港湾の中まで鉄道が引かれていないため鉄道駅までショートドレージが必要となるなどの課題があると認識している。「新しい国際コンテナ戦略港湾政策の進め方検討委員会最終とりまとめ」において、鉄道を含むモーダルシフトの取り組みを進めていくとされているところ、海上コンテナ貨物の鉄道輸送への接続に関する実証を行うなど、戦略港湾と内陸地域を結ぶ海上コンテナ専用列車の実現に向けて取り組んでいく。


③ハブ港を日本海側ではなく、なぜ太平洋側に作ることにこだわるのか理由を教えてほしい。津軽海峡辺りが良いのではないか。


(回答)

 京浜港・阪神港は我が国を代表する大消費地を有しており、これらの貨物需要を活用することが重要。両港を戦略港湾として選択し集中的な投資を始めたところであり、引き続き両港への集中的な施策に取り組む必要があると考えている。



◎Webからの質問


1)シンガポールのAIを利用したシームレスな港湾運営とは具体的にはどういうことか。港湾のデジタル化と脱炭素化の動きとは、スマートグリッド以外の事例を教えてほしい。


(男澤様の回答)

 現段階では、AIに現在の作業を落とし込み、現実のターミナルを再現し、それを基にAIによって効率的なターミナルシステムを提案してもらうことを進めていると認識している。スマートグリッド以外の事例は、よくわからない。


2)港湾政策を今後マクロ経済的にはどのように見ていけばよいのか。経済は拡大し、貨物が増大する方向で考えればよいのか。


(澤田様の回答)

 将来を予言することはできないが、経済成長とコンテナ物流の増大が実現した世の中を目指していきたい。船会社としては貨物がある港を寄港地に選ぶと思われるので、国内外からの集貨や創貨の施策を通じて、日本発着の貨物を着実に増やしていくことが必要。


(木戸様の回答)

 2300万TEUという日本発着の貨物量は船社にとっても無視できる量ではない。実際に東アジアからの消費財の輸入は多く、。日本と東南アジアには太いパイプがあるので、アジア航路においては船会社の日本寄港のニーズはなくならない。基幹航路の母船の船型の大型化はあるが、例えば北米航路の輸出で日本が最終寄港地であった場合、船会社は最終寄港地を出港する時点で可能な限り満船にしたいと考える。その為に、アジア出し北米向け貨物の一部をアジア出し日本向けの本船に積み、日本で北米向け母船に積み替えることで北米向け母船のスペースを埋める、ということは十分に考えられる。重要なことは国際戦略港湾政策に沿って貨物を集中させることであり、可能な限り基幹航路の母船寄港サービスを維持すると共に、アジア航路母船とのコネクティビティを日ごろから維持しておけば、トランシップ貨物も、集まってくることも将来的にはありうる。粛々と取組んでいきたい。


3)コンテナターミナルの自動化については、例えばアメリカにおいて労組のネガティブな態度などが自動化推進のボトルネックになっているとの指摘がある。この点、日本において、港湾経営側、労働者側、行政側はどのように取り組んでいくべきであろうか、お伺いしたい。

(澤田様の回答)

 立場により意見が異なることは理解できる。行政側のスタンスとしては、これまでも、CONPASの導入によるターミナルゲート渋滞の解消、ゲート高度化や遠隔操作RTGの導入に対する支援、新技術開発に対する支援に取り組んでいる。今後も、DX化に取り組みたいと考える人への支援を提供していく所存である。


(木戸様の回答)

 海外の全自動化ターミナルでも100%自動化にはなっていない。必ず人がかかわっている。人が行う方が効率的であれば人が、機械が取って代われるものは機械で、という考えで進めばよいと思う。少子高齢化、働き方改革もあり、先行している海外の自動化ターミナルの詳細な検証を進め、見習うべきところや我が国独自のルールでやる方が良いところなどを見定めたうえで今後検討してゆけばよいのではないかと思う。



【閉会挨拶】 (公財)日本海事センター 理事長 平垣内 久隆



(注)以上の講演の結果概要につきましては、主催者側があくまで速報性を重視して作成したものですので、発言のニュアンス等を正確に再現できていない個所、あるいは重要な発言が欠落している箇所等がある可能性があります。

つきましては、発言の詳細や正確な発言を確認したい場合は必ずYouTubeを視聴してご確認いただくようお願いします。また、本結果概要の無断での転載等は控えていただくようお願いいたします。