フォーラム・講演会

Forum

JMC&IOPC Funds共催セミナー
「海洋環境保護等への国際油濁補償基金の役割・貢献 ー現状と今後の展望ー」
を開催しました。

開催概要 1967年に発生したトリーキャニオン号の座礁事故を契機に、タンカー等の事故による油濁損害の被害者に対し、迅速かつ十分な補償を行うための国際的な体制が構築され、今日まで大きな役割を果たしてきました。今般、国際油濁補償基金(IOPC Funds)事務局長の来日に合わせ、IOPC Fundsが海洋環境保護及び汚染防止等にこれまで果たしてきた役割や貢献等についてIOPC Funds事務局長にご講演いただきました。
また、石油メジャーなどが加盟するOCIMFによるSIRE検船プログラム、タンカーの船主等への油濁事故の際の技術サービスを行っているITOPF、さらにはMARPOL条約に基づく海洋環境保護及びOPRC条約に基づく汚染防止、油濁防除体制などに関する各国及び我が国の最近の取組動向及び課題と今後の展望等について、関係者の皆様からご講演をいただいたうえで、パネルディスカッション等を行いました。
日時 2023年10月18日(水) 13:30 ~ 18:00
開催方法 会場参加・ハイブリッド開催              
場所 イイノカンファレンスセンター 4階 Aルーム
(〒100-0011 東京都千代田区内幸町2-1-1)
共催 公益財団法人日本海事センター
国際油濁補償基金(IOPC Funds) 
後援 国土交通省
開会挨拶

(公財)日本海事センター 会長 
宿利 正史

開会挨拶 

開会挨拶動画 

略歴

講演1

IOPC Funds事務局長 Gaute Sivertsen 氏

講演資料 

講演動画 <日本語訳>

略歴 

講演2

(一財)運輸総合研究所 特任研究員                                        東海大学海洋研究所特任教授
大坪 新一郎 氏

講演資料 

講演動画 

略歴 

講演3

石油会社国際海事評議会(OCIMF) プログラム・ディレクター(船長)
Aaron Cooper 氏

講演資料 

講演動画 <日本語訳>

略歴 

講演4

国際タンカー船主汚染防止連盟(ITOPF) テクニカルアドバイザー
Ayumi Therrien 氏

講演資料 

講演動画 <日本語訳>

略歴 

講演5

日本郵船株式会社 エネルギー業務グループ グループ長代理
藤野 晴久 氏

講演資料 

講演動画 

略歴 

講演6

海上保安庁総務部参事官
足立 基成 氏

講演資料 

講演動画 

略歴 

パネルディスカッション

東京大学大学院法学政治学研究科教授
藤田 友敬 氏

パネルディスカッション動画 <日本語訳>

略歴 

閉会挨拶

IOPC Funds監査委員会委員(兼(公財)日本海事センター参与)
大須賀 英郎

閉会挨拶 

閉会挨拶動画  

略歴 

フォーラム動画
(通し)
https://www.youtube.com/watch?v=8iZCqEVJwrk

当日のプログラム

JMC&IOPC Funds共催セミナーの開催結果(概要)

(開催の背景)

当センターは、国際油濁補償基金(IOPC基金)の会合や国際海事機関(IMO)の各委員会へのわが国の対応に貢献するべく、海運問題研究会の下に5つのテーマ別検討委員会を設け、産官学の関係者の協議の場を提供するとともに、研究員が政府代表団の一員としてこれら会合、委員会に常に参加してきた。

昨年9月、ロンドンの国際油濁補償基金(IOPC Funds)にて、シバトセン事務局長と当センター宿利会長が会談を行った結果、当センターと国際油濁補償基金(IOPC Funds)との間の連携・協力活動を進めていくことが合意された。

今回、シバトセン事務局長の来日に合わせ、上記の連携・協力活動の一環として、同基金が海洋環境保護及び汚染防止等にこれまで果たしてきた役割や貢献等をテーマとする同基金と当センターの共催セミナーを開催した。

 

(開催日時等)

(テーマ)『海洋環境保護等へのIOPC基金の役割・貢献と今後の展望』

日時:令和51018日(水)

場所:イイノカンファレンス Aルーム(120名程度)

Zoomでのハイブリッド開催/同時通訳付き)

後援:国土交通省

 

(プログラム)

開会挨拶(公財)日本海事センター 宿利正史会長

(別添参照)

 

講演① IOPC基金事務局長 Gaute Sivertsen

シバトセン事務局長からは、基金の設立経緯、仕組み、事故が起きた際の基金の対応、現在の課題などについて説明があった。

 

講演② 運輸総合研究所 特任研究員 

東海大学海洋研究所 特任教授  大坪新一郎氏 

運輸総合研究所特任研究員/東海大学海洋政策研究所特任教授であり、元国土交通省海事局長の大坪氏からは、国際的規制の必要性やその現状、その履行確保のための旗国検査、寄港国検査等の枠組みや、規制の難しさ、さらには事故の現状、安全性確保のためのポリシー・ミックスの必要性などについて説明があった。


講演③ 石油会社国際海事評議会(OCIMF) 

Programmes Director  Aaron Cooper

石油会社国際海事評議会(OCIMF)プログラム・ディレクターのクーパー氏からは、OCIMFの組織と活動、荷主である石油会社が行う検船(SIRE)と新たに導入しようとしているSIRE2.0及びその移行措置、またバージを検査するBIREなどについて説明があった。

 

講演④ 国際タンカー船主汚染防止同盟(ITOPF

          Technical Adviser  Ayumi Therrien

国際タンカー船主汚染防止同盟(ITOPF)のテクニカル・アドバイザーのテリエン氏からは、ITOPF及びその活動や、事故が起きた場合の対応方法、事故が起きる前の対応体制の整備、汚染損害に関する査定方法について説明があった。

 

講演⑤ 日本郵船株式会社 エネルギー業務グループ

グループ長代理 藤野晴久氏 

日本郵船(株)エネルギー業務グループグループ長代理の藤野氏からは、環境の保護にはまず事故を起こさない安全運航が大切であるとして、タンカーに対する国際的な規制、OCIMFなどの国際的団体による船舶検査に加えて行っている独自の安全性確保の手法について説明があった。  

 

講演⑥ 海上保安庁総務部参事官 足立基成氏

海上保安庁総務部参事官の足立氏からは、わが国周辺海域における海洋汚染の現状、油防除体制、海上保安庁の取組みから、油防除に関するアジア諸国への支援や次世代燃料への備えについて説明があった。

 

【パネルディスカッション】

その後、東京大学大学院法学政治学研究科の藤田教授をコーディネーターとして、上記の講演者6名によるパネルディスカッションが行われた。議論の概要は以下の通り。

 

大坪氏)拠出金負担の公正性を確保に向けて努力されているという話があったが、拠出金を払えるような未加盟国があるのではないかと思う。このような国へのアウトリーチをどうされているか。また、今回、プレゼンテーションにあったような安全性の向上に努めている船社は問題ないが、制裁を逃れるように船舶を運航するようなサブスタンダード船社に対する不公平感にどのように対応されているか。

シバトセン氏)公正性の確保には継続的に努力していく必要があると思っている。決議13号の案は、油受取量報告を出さない国があっても、試算値により受取人に請求書を出そうというもので、今次総会に提案している。将来は、試算に用いるデータと報告された受取量とのギャップについても対応していきたいと考えている。アウトリーチについては、システムを理解し、遵守できるかどうかが重要で、例えば、インドネシアへのアウトリーチを考えている。インドネシアは油を受け取っていて、1971年基金には入っていたものの、1992年基金には入っていない。また、1992年基金に入っている国には、追加基金への加入も呼びかけている。制裁逃れについては、旗国や寄港国、特に寄港国に付保の確認を行うよう呼びかけつつ、問題意識の共有を図っている。

 

藤野氏)我々もタンカーを保有し、運航する者として、SIRE2.0を勉強し、Phase 2に参加している。今後、検船はタブレットを使って行われるが、SIRE検査官の中には、システムについていけずに辞めていく人もいるようである。検査官の人数確保のために、どのような取り組みを行っているのか。それから、SIRE2.0では、悪いところだけでなく、良いところもチェックすると承知しているが、チェックして出てきた良い点は、どのように活用するつもりか。

クーパー氏)実効性確保に向け、課題がないわけではない。現在の検査官をどう活用していくか、デジタル化等により退職していく人もいるのは事実。現在、ウェビナーなどを開催して研修に努めているが、Phase 3では数百人の検査官が必要になる。これまで研修を受ける側だった検査官が研修を行う側になることが求められている。SIRE2.0では、悪い点だけでなく、良い点も記録することになった。どう活用するかについては、評価はメンバーが行うことになっており、OCIMFはオブザベーションはしても、評価はしないことになっており、その点からも検討が必要である。

藤野氏)管理会社に加点するとか、表彰するとか、何か考えてみてはどうか。

クーパー氏)コメントも参考にして検討したい。

 

足立氏)ITOPFでは現場に出て活動することを重視しているという話があったが、事故、汚染が複数の国にまたがるような場合があるか。もしそのような経験があれば、そういった場合の課題等があるか。また、我々も関係してくることだが、今後船舶の燃料が新しくなっていくと、新たな燃料がより頻繁に海上輸送されるということが想定されるが、防除体制の構築について何か研究、勉強しているか。

テリエン氏)年間数十件の事故に対応しており、被害が複数の国にまたがることはあるし、実際に経験もある。油が海流で流されて、一つの国から別の国、それがまた別の国と漂着していくような場合、複数の当局を相手にする必要があり、また複数の国を移動することになる。この場合、当局間の連携が非常に重要になる。我々の特性は、専門性と客観性であり、その意味で、当局間に入って仲裁的な仕事をすることもある。また、複数の国にまたがる事故を想定して事前に対応準備を行う、対応準備にアドバイスすることもある。ITOPFの強みは客観性にある。新たな燃料、化学物質についてだが、これらへの対応も支援している。今後、代替燃料の普及が急速に進むと考えており、内部でも勉強を進めている。化学物質の専門家にも参画してもらっている。

藤野氏)事故はタンカーばかりでなく、他の船種でもある。最近の火災事故では、火災の原因が様々であり、それによって対応も異なってくる。一方、船上ではできるだけ少ない水で消化する必要がある。このような他の船種への対応も考えているなら、現場を重視するという観点からも、ぜひ我々の船舶に訪船してもらいたい。

テリエン氏)ぜひそういう機会をいただきたい。本日、参加されているどの船社の方でも結構なので、ぜひそういう機会をいただきたい。現場を見ることは非常に重要。提案に感謝したい。

 

藤田氏)大きな事故が起きた際に、ITOPFIOPC基金が協力しているという話はよく聞くが、実際の事故で、どのように協力しているのか。そして、協力関係に何か課題はあるのか。

シバトセン氏)国際グループに所属するP&Iクラブが付保する船舶であれば、事故の規模に関わらず、テクニカル・エキスパートとしてITOPFが協力することになる。そのようなP&Iクラブでない場合でも、専門家として、ITOPFに協力を依頼することは多い。

テリエン氏)最近のフィリピンでの事故であるPrincess Empressの事故でも、クラブと基金の代理として、影響評価を行っている。分野は、漁業、農業、住民の生活、環境の回復措置などに及ぶ。大坪氏の言った通り、基金にとって公正性は非常に重要であり、国が異なっても一貫した勧告をすることが重要になる。そのためのグローバル・エキスパートとして、ITOPFは活動している。

シバトセン氏)Princess Empressは協力関係の非常によい例である。ITOPFは漁業への影響評価など、大きな役割を果たしており、基金とはすばらしい協力関係にあって、すばらしいパートナーである。

 

足立氏)我々はHNS条約の批准状況に関心を持っている。日本としては、どのような立場か。

大坪氏)自分としても質問したかった。自分が海事局長であったときも、加入、国内法制化の是非を検討した。わが国は2019年にバンカー条約と難破物除去ナイロビ条約に加入し、船舶油濁賠償保障法を改正したが、その際にも、一緒に国内法制化できないかということで、前向きに検討を行った。その当時は、業界の意見もあって踏み切れなかったが、今の海事局がどのように考えているかはわからない。発効要件充足の状況や、日本にとっての加入のメリットがあれば教えてほしい。

シバトセン氏)近々、新たな批准がある。どの国とは言えないが、欧州の大きな国。さらに3か国が2024年に批准することになるだろう。そうすると後2か国で締約国数の要件は充足される。我々としては、その2か国が小さな国、途上国ではなく、拠出金を支払う国、システムをよく理解して様々なアドバイスをしてくれる国であることを期待している。エスティメートとゲスの間のゲスティメートをすると、2024年末か、2025年頭くらいに発効要件を満たすのではないか。そこから18か月の猶予期間がある。条約の成功のカギは報告、拠出のシステムをしっかりと構築することであり、非常に重要視している。日本にとってのメリットとしては、日本の業界が直接的な賠償、補償の責任を負う場合に、基金ができていれば基金が被害者への補償を行うということ、そして、国際的な責任体制が構築されれば、日本に入ってくる船舶からも保護されるということである。いずれにしても、受取量報告の確実な提出と拠出金の確実な支払いが成功の鍵であると認識している。

藤田氏)まずは確立した現在のシステムでもまた拠出の実効性を高める努力が必要であるということ。現在のシステムでは石油業界だけであるが、HNS条約ではさらに多くの業界が関係してくることから、拠出の公正性がないとシステムへの信頼が生まれないということだろう。

 

テリエン氏)藤野氏の提案もあったが、この分野では協力、協働が非常に重要で、乗船してみる、セミナーを開く、そういったことを通じて、平時から信頼関係を醸成していくことが大切だと思っている。信頼醸成にはまずはコミュニケーションが大切である。

藤野氏)協力、協働は非常に大切。そのためには、透明性が重要。事故対応の際は、透明性と迅速性を重視している。

 

藤田氏)最近、重要と考えている問題、深刻な課題はあるか。また、日本の海運業界や国への期待などがあれば。

クーパー氏)今回の藤野氏のプレゼンテーションにもあったが、事故の要因として、人的要因が注目されている。その対応として、デジタル化が進められ、今はAIの時代となっている。デジタル化には、トレンドの把握やギャップの特定など様々なメリットがある。データを分析、評価して、先手を打つことができる。海運会社では、スケジュールの最適化、乗員配置の最適化などに利用されている。現在の事故の80%は人的要因と言われており、人は失敗をするもの。だからこそデジタル化を推進しなくてはいけない。デジタル化の推進が最大の課題。

テリエン氏)深刻な課題や、日本への期待は非常にたくさんある。低硫黄燃料油への対応は目の前の課題。デジタル化が進んで、AIが普及しても、実際の事故対応はAIにはできない。その意味で、現場の能力開発が課題ではあるが、その点では日本はよく整備された防除体制を持っている。なので、コミュニケーションを大切にし、透明性を高める努力を続けてほしい。

シバトセン氏)課題としては、やはりダークフリートだろう。事故を起こすのではないかと夜も眠れない思いである。適切に付保されていない船舶の事故における補償はすべて基金が行うことになっており、すべて基金への拠出金で賄われる。また、すでに述べたように、油受取量報告の確保、拠出金支払いの確保も課題であり、HNS条約の成功ともつながっている。日本への期待は、これまでも日本の基金会合でのプレゼンス、貢献は素晴らしいものがあった。ITOPFが言うように、日本は体制がきちんと整備されている。引き続き、国際的な基金の体制へのエンゲージメントをお願いしたい。加えて、HNS条約への加入を考えてほしい。早期の加入を期待している。

大坪氏)IOPC基金への対応、エンゲージメントは、ぜひ国交省の後輩に頑張ってもらいたいと思う。デジタル化については、国交省も支援してきている。言っておきたいのは、デジタル化が直ちに省人化につながるわけではないということ。船員は貴重な人的資源であり、最も重要な最終的な承認権限が委ねられることになる。自律運航船になっても船員は重要な存在であり、不要になることはないという点は強調しておきたい。

足立氏)海上保安庁としてもダークフリートは取り締まらなければならないと考えている。特に制裁対象となっている船舶の取り締まりを強化、国連の制裁対象となっている北朝鮮の船舶を取り締まる必要があるが、旗国主義もあって、難しい面もある。船舶間の貨物積替え(STS)の取り締まりも重要。ITOPFIOPC基金との情報共有も重要であり、今後コミュニケーションを維持していきたい。新しい技術の話があったが、海上保安庁でも、シーガーディアンという遠隔操縦無人航空機を導入しており、不審船舶の監視や海難事故対応等に活用している。また、新技術に関わる課題、新たな船舶火災への対応や、新燃料にまつわる課題、積極的に取り組んでいきたい。

 

藤田氏)海洋環境の保護は、人的要素、技術的要素、それを支える法制度的な要素が組み合わさって初めて達成することができる。しかも、1か国だけで達成することはできず、国際的な協調のもとで行わなければ実現できない。本日、海洋環境保護のため様々な異なる立場から国際的に貢献される皆様の話を聞くことができたことは、大変有意義であった。セミナーのタイトルでもある国際油濁補償基金の設立から、基金を取り巻く環境も大きく変化した。加盟国の増加は喜ばしいことではあるが、一部の国では適切なエンフォースメントという面で課題が生まれている。国際油濁補償基金が国際的に信頼され、発展し続けるためには、事務局長の指導の下、今後も様々な課題を乗り越えていく必要がある。OCIMFITOPFといった国際団体との協力も大きな力となるだろう。日本の業界や政府に期待される役割や要望もある。我々も海洋環境保護のため、どのような貢献ができるかについて自覚的になる必要があるだろう。国際油濁補償基金、各国政府及び業界等の利害関係者が適切に協力し、国際的な海洋環境保護の体制が一層発展することを祈り、結びとしたい。

 

閉会あいさつ IOPC基金監査委員会委員

(公財)日本海事センター参与 大須賀英郎

(別添参照)

 

(注)以上の講演の結果概要につきましては、主催者側があくまで速報性を重視して作成したものですので、発言のニュアンス等を正確に再現できていない個所、あるいは重要な発言が欠落している箇所等がある可能性があります。

つきましては、発言の詳細や正確な発言を確認したい場合は必ずYouTubeを視聴してご確認いただくようお願いします。また、本結果概要の無断での転載等は控えていただくようお願いいたします。