JMC海事振興セミナー

Seminar

第3回JMC海事振興セミナー
「国際物流における我が国の貿易電子化の現状と展望」

開催概要 コロナ禍において国際海上物流の混乱が長期化する一方、 CPTPP 、日 EU 経済連携協定、 RCEP など、世界の自由貿易圏の経済連携が進んでおり、サプライチェーン全体を再構築する動きが見受けられる。その中で、新しい技術であるブロックチェーン技術を活用して貿易関連情報をシームレスかつリアルタイムに共有化するデジタルトランスフォーメーション( DX )の動きが広がっており、国際物流の効率化など様々な効果が期待されている。
今回は、日本においてその最先端を行くブロックチェーン技術の専門家および有力な貿易プラットフォームを開発・推進する企業を招き、我が国の貿易電子化の現状と展望について探ることとしたい。
日時 2022年7月15日(金)14:00~16:00
開催方法 オンライン(Zoom ウェビナー)
第3回JMC海事振興セミナー 全編 https://www.youtube.com/watch?v=UWKeinTaMZk
開会のご挨拶

(公財)日本海事センター会長 宿利 正史

開会挨拶

開会挨拶動画

ご講演

流通科学大学 名誉教授 森 隆行 氏

講演資料

講演動画

ご講演

神戸大学大学院海事科学研究科 准教授 平田 燕奈 氏

講演資料

講演動画

ご講演

株式会社トレードワルツ 代表取締役社長 小島 裕久 氏

講演資料

講演動画

ご講演

A.P. モラー・マースク アジア太平洋地域 プロダクトマネージャー 市村 良 氏

講演資料

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総括及び質疑応答

コメンテーター: 流通科学大学 名誉教授 森 隆行 氏

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閉会のご挨拶

(公財)日本海事センター 理事長 平垣内 久隆

閉会挨拶

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第3回JMC海事振興セミナー結果概要

1.開催概要

令和4年7月15日、東京都千代田区麹町の海事センタービル4階会議室において、第3回JMC海事振興セミナーを開催いたしました。
当日は「国際物流における我が国の貿易電子化の現状と展望」と題して、ZOOMを活用したオンライン配信により実施いたしました。
多くの視聴者から参加登録をいただき、盛況裏に開催することができました。

2.講演内容

(1)「我が国の海事・貿易の電子化の現状」(森隆行流通科学大学名誉教授)

「今はどのような時代か?私たちはどのような時代に生きているのか?」と問いかけ、現在を「大きな歴史の転換点、大変化の時代」と捉え、この中で、「日本の電子化は、海事・貿易分野でも出遅れており、ブロックチェーン技術の登場を背景にした電子化の急拡大に追いついていく必要があるため、サプライチェーン全体の電子化を目指すことが肝要である」と述べられたうえで、「電子化に取り組まなければ、企業にとってはリスクを負うことを意味し、物流を効率化・可視化・自動化・標準化できない」として、データ収集・活用重視の取り組みを提唱されました。

(2)「ブロックチェーン技術と国際物流」(平田燕奈神戸大学大学院准教授)

本講演ではデジタルトランスフォーメーション( DX )の要素技術(AI、Blockchain、Cloud Computing、Data)を概観する上で、コア要素技術の一つである、ブロックチェーン技術について紹介されました。
具体的に、ブロックチェーンの仕組み、ブロックチェーンと国際物流との関係や応用分野への言及、未来への展望について解説されました。
ブロックチェーン技術の誕生は国際物流に画期的変革をもたらす原動力であり、将来的に「ボーダレス越境貿易」、「フィジカルインターネット」、「モジュールコンテナ」、「相互接続性」等の実現に不可欠であり、また、日本においては、2019年よりブロックチェーンに対する注目度が年々高まっており、中心地は首都圏から中部や近畿へ広がっている、との紹介がありました。

(3)「トレードワルツの現状と展望」(小島裕久株式会社トレードワルツ代表取締役社長)

以下の内容の講演が行われました。
貿易業界の現状として、国家間でのモノの輸送(貿易)の量は加速度的に増えている一方、貿易手続きの質は紙原本が必要とされ、デジタル化が進展せず非効率で、特に日本はEUの34倍の手続き時間を要する深刻な状況である。しかし昨今、紙原本を廃するブロックチェーン技術の到来により世界中で貿易デジタル化が始まり、プラットフォーム(PF)が多数生まれており、貿易手続き電子化の法改正が各国で進められている。
多数生まれているPFの一つであるTradeWaltzは、2017年8月に、NTTデータが産業横断型の貿易コンソーシアムを立ち上げ、貿易手続き電子化に向けた課題抽出、実証が始まり、ブロックチェーン技術を採用した産業横断型の貿易PFとして構築され、2020年11月には7社共同出資(現在10社)による株式会社トレードワルツが船出し、2021年10月にはTradeWaltzトライアル版、そして2022年4月に製品版をリリースしている。
今後の展望としては、自社のみで日本国内の電子化を進めるのみならず、各国・各産業で構築している他貿易PFと積極的に協業・システム連携することで、世界の端から端まで電子情報でつながる貿易エコシステムの形成と情報の結節点となるハブ役を担い、  世界中のデータを活用しデジタルトランスフォーメーションを目指すことで、世界中からTradeWaltzに集まり蓄積される貿易データを活用し、将来的には関税計算の自動化や、取引データを基にした企業ごとの信用格付、物流・カーゴマッチングやデジタル通貨決済、スマートコントラクトでの貿易自動化など、データ駆動型の多様なサービス構築を目指し、これまでの貿易の在り方を変え、未来の貿易をつくる存在になっていくことを目標としている。

(4)「TradeLensの現状と展望」(市村良A.P.モラー・マースクアジア太平洋地域プロダクトマネージャー)

以下の内容の講演が行われました。
「物流の可視化」に関連するプラットフォーム(PF)は、群雄割拠の様相を呈し、多様なニーズに応えるべく、数多くのプロダクトが開発されており、それぞれ独自の機能や強みを持っている。「TradeLens」はマースクとIBMが共同開発した、海上コンテナ輸送に関連したプロセスをデジタル化するためのPFで、2018年からサービスを提供している。以下、TradeLensの設計・開発、 運用 、展望について述べる。
まず、設計・開発思想としては、国際物流、特に海上コンテナ輸送のためのPFで、SaaSと呼ばれるクラウド型サービスであり、世界中のコンテナデータを集約し、構造化して整形し、利用価値を高めたデータとして提供する。データの「囲い込み」を図るのではなく、DCSAやUN/CEAFACTなどのデファクト・スタンダードを尊重し準拠、相互互換性を確保しており、「データ・ドリブン」のコンテナ物流の実現を目標としている。
次に運用については、マースクが開発に加わっているが、プラットフォームとそのサービスは厳正な中立性が保たれており、MSC社やCMA CGM社、Hapag-Lloyd社などをはじめとする多数の船会社や鉄道・港・ターミナル事業者、税関等がデータ・プロバイダーとして参画し、「エコシステム」を構成している。機能の拡充・改善の提案をする「アドバイザリー・ボード」のメンバーとして、マースクは現在でも積極的に貢献し続けている。
今後のデジタル化の展望については、「スケーラビリティ(拡張性)」に行きつくものであると考えており、TradeLensにはエコシステムとしての「Core」、電子BLの「eBL」というどちらも国際物流のデジタル化を推進する重要なサービスの特徴があり、今後、更に多くの船会社、内陸輸送事業者、港湾組織、公的機関等をエコシステムに取り込み拡大を図り、フィードバックをもとにした機能の拡充に注力していく、という展望を描いている。

3.質疑応答

コメンテーター(森先生)より報告者への質問事項

(1)平田様への質問

フィジカルインターネットについて少しお話をお聞きしたいと思います。
「フィジカルインターネット」という用語が出てきました。最近、耳にする言葉ですが、これは従来の「物流の共同化」「共同物流」とどう違うのでしょうか。ブロックチェーンとの関係では、共同物流ではなく、フィジカルインタ-ネットでなければならないのでしょうか。また、フィジカルインターネットとモジュールコンテナの関係についても世界標準になっていくのでしょうか。説明していただけますか。

【回答】

まずは、「フィジカルインターネット(PI)」と「共同物流」の違いについてです。「共同物流」というのは、複数企業の物流諸機能(保管・荷役・輸送・配送など)を共同で行うことを指す、主にコストダウンや人手不足対策として導入されています。PIは共同物流の拡張・進化版といった位置付けで考えたらわかりやすいです。共同物流は標準化され、より広域に行われることによって、PIが実現されます。
つぎに、PIとモジュールコンテナの関係についてですが、これまで輸送には 40 フィート、12 フィートといった海上コンテナや鉄道コンテナが主流で使用されていますが、PIにおいてはより小さな輸送ユニット、モジュールコンテナを使用します。その理由として、最近30年間で積荷重量は小型化・軽量化している傾向が見られることが一つの例として挙げられます。モジュールコンテナのような小さな輸送ユニットを用いることで、輸送中に発生しうる様々な状況に合わせて、輸送プランを柔軟に変更が可能となります。また、モジュールコンテナは様々なサイズがあり、組み合わせ方次第で、無駄を省けるように積載が可能となります。そのため、PIにおいてモジュールコンテナの使用が提案されました。

貿易・物流分野のプラットフォームの未来についてお聞きします。
今後、貿易、物流の分野でもTradeLens のようなプラットフォームが数多く誕生すると考えられます。当然、その中で淘汰されるものもあると思います。こうした市場競争は激しくなるのでしょうか。そして、競争の結果はどうなると予想されますか。PCや携帯のOSのように独占や寡占市場となるのでしょうか。お考えをお聞かせください。

【回答】

個人的な考えですが、プラットフォーム間の関係は、ある意味、コンテナ船の船会社間の関係に似ていると考えます。技術と資本両面の投資からみると、ブロックチェーンに基づいたプラットフォームへの新規参加障壁が高いと言えます。また、既存の個々のプラットフォームにおいて、サービスの差別化が難しいとも言えます。こういった状況の中、プラットフォーム同士が競争するよりも協力する方が、総効用(全体の効用)が最大化されるのではないかと考えています。

(2)小島様への質問

電子B/Lについて質問です。日本で法制化が進んでいるということですが、後何年くらいかかりそうですか。また、海外の状況はいかがですか。

【回答】

おっしゃる通り、技術的には電子B/Lは実現できており、TradeLens 、Bolero(ボレロ)、EssDOCS(エスドックス)など7つの公式電子B/Lが欧米を中心に利用され始めています。2021年にはシンガポールなどの5カ国で法改正がなされ、2022年は英国での法改正が完了するほか、日本も法案が法制審議会に入っており、日本では2025年、2026年以降に法制化されるのではないかと思われます。それまでにいろんな準備を進めていきたいと考えています。

デジタル貿易の標準化についてお話しされました。電子化の一つの役割は標準化の促進だと思います。今後、あらゆる分野でますます標準化が重要になると考えられます。
標準化、イコールルール作りだと思います。スポーツのルール変更を見ればわかる通り、ルールを作る側が有利になります。標準化ではISOを含め、欧州が主導しています。今後、こうした標準化の主導権争いが顕在化するのではないかと思います。日本もできたルールに従うのではなく、ルール作りの段階から関与すべきだと思いますが、このデジタル分野のルール作りにおいて日本はどうでしょうか、主導的な役割を担えるのでしょうか。また、そのためにはどうすればよいでしょうかお考えをお聞かせください。
また、貿易・物流分野のプラットフォームに関して、標準化の意味・必要性はあるのでしょうか。もしあるのであれば、標準化する可能性はあると思われますか。

【回答】

おっしゃる通り、ルール作りへ積極的に関与していくことは必要です。
ルール形成は、

  • ①デジタル庁や経産省主導のもと国家間の議論や交渉に参画していく
  • ②ISOに関して日本側からトレードワルツも関与し、電子B/L標準の審査に参加していく
  • ③国際貿易ルール標準の策定の議論にも関与し、標準化の審査や国内提供を行う

これら3ラインの情報連携をトレードワルツと省庁が担っており、貿易プラットフォームについては既に標準化の必要性を議論する時代は終わっていて、今は相互接続性(interoperability)が当然のテーマとしていかに国家間でルール形成したり、接続実例を生み出すかという時代になってくるのではと思います。

(3)市村様への質問

「TradeLens」は、デファクト・スタンダードに忠実であるとして、その中で「規格戦争を避け、協調を促進」を挙げていますが。具体的にどういうことでしょうか。
GSBNや他のプラットフォームと共存を図ろうという意味ですか。ここで、規格戦争とは、どういう意味で何を指すのでしょうか。もう少し具体的にお教えいただけますか。

【回答】

ここでの「規格戦争」とは、データフォーマットの主流を定めることの覇権争いを指しています。すこし古いですが、かつての「ベータ vs VHS」の対立構造を思い浮かべて頂くと分かりやすいと思います。
IBMやMAERSKといった、ある程度の影響力のある企業であれば、独自のデータフォーマットを新規に策定して運用することが出来ます。TradeLensの中だけで用いられるような独自のデータ規格を定めることが出来るのです。 一般的に、企業がこういった規格を自社開発するのには市場での影響力を確保したいという思惑が強いです。こういった例はたくさんあります。iPhoneで有名なApple社がLightningケーブルにこだわったりするのもそういった理由があると言われています。
TradeLensは、こういった意味での規格戦争を避けています。汎用的なデータ形式や、海運業界での一般的な定義付けに忠実にデータ運用をしています。

②“「データ・ドリブン」のコンテナ物流へ”。ここで言われているデータ・ドリブンとは、簡単にいえば収集したデータを分析し、意思決定や企画の立案に役立てていく方法論のことだと理解していいのか。そこで、質問ですが、データ独占との関係で、TradeLens のマースクラインの戦略との関係について、お教えいただきたい。

【回答】

TradeLensを使用し、データ・ドリブンの物流を実現による受益者は、主にTradeLensのユーザーです。それでTradeLensの受益者とは、主に荷主の立場にいる方々です。
ご質問にあったMAERSKの今後の戦略との関係についてもすこしお話致します。弊社は明確な方向転換をしており、今までの「船会社」としてのMAERSKから「Integrated Logistics Provider」つまり「総合物流サービスプロバイダー」へと変革している最中です。
通関や配送、倉庫、また航空貨物といった物流の総合商社を目指しているのです。
データの価値は独占ではなく、使えるかどうかが大事であり、自社のデータをお客様に提供するプラットフォームの選択肢としてTradeLensは中立性、公共性を重視しており、今後非常に重要な役割を果たしていきたいと考えています。

4.オンラインによる一般からの質問

①平田様に向けた質問

他の地域に比べて、岐阜や京都といった地域のほうが、愛知や大阪といった大都市よりもブロックチェーンに対する関心が高まっていることについて、その理由は何か見解をお聞かせください。

【回答】

京都については京都大学が主導している各種のブロックチェーンに関する研究会・セミナー・研究開発活動が推進の原動力になっており、岐阜では地域として積極的にブロックチェーン技術を導入しています。一例として、白川郷の宿泊予約システムがあります。また、岐阜大学主導の研究開発プロジェクトに関する流通システムにも利用されています。

②小島様に向けた質問

貿易プラットフォームにつきまして、港湾に集まってくるコンテナ情報についても御社のプラットフォームで情報を共有することは可能でしょうか。

【回答】

現状の機能ではできませんが、ご利用いただいている顧客や問合せのある方々から強いニーズがあるので、TradeWaltz側で一から構築するのではなく、船社プラットフォームと連携してサービスの提供をしていきたいと考えています。

③市村様に向けた質問

世界の約70%のコンテナの可視化できているとのお話でございましたが、新型コロナウイルス流行初期にコンテナ不足が課題になった際の解決などにもTradeLensのサービスは活用されたのでしょうか、それとも解決にはまだ他の要素が必要でしたでしょうか。

【回答】

コンテナ不足は物理的なコンテナ不足状態が常態化したことが原因であり、その状況が可視化はできているにすぎませんでした。そのため、ほかの要素が解決には必要な状態でした。TradeLensの可視化の力だけでは対応できない状況でした。TradeLensを活用するとすれば、混乱している物流の中で最新の情報をキャッチアップするような形で利用いただければと思います。

5.総括コメント(森隆行流通科学大学名誉教授)

「今回、多くの方に御視聴いただき、また3人の専門家の方からブロックチェーン及びブロックチェーンを使った貿易等の話を聞くことができたことは非常に有意義でした。
現代は、コロナやウクライナ紛争など不確かなことの多い時代だが、確かなことは、現在あらゆる分野で進んでいるデジタル化の流れであり、避けられない大きな流れとなっていることです。それは、海運や港湾を含む貿易の分野でも例外ではないことがよくわかりました。それらを支えているのがブロックチェーンの技術であることが平田先生の話からわかり、プラットフォームがどのように使われているのか、電子B/Lの法改正の日本における進捗状況、TradeLensとマースクの関係、透明性重視の考え方、規格競争を避けるスタンスなど、小島様や市村様からの話で、よく理解ができました。今回の話から今後プラットフォームを活用したいと考えている参加者にとっては、大変有意義であったと思います。」
とのコメントがなされました。

(注)
この結果概要は事務局の責任で編集しているものであり、発言の取り上げ不足やニュアンスの違い等がある場合がありますので、正確な内容については必ず画像及び音声をご確認いただくようにお願いします。