四面を海で囲まれた我が国では、輸出入貨物量の99%以上を海上輸送が担うなど、経済・社会活動や国民生活における海運の重要性は極めて高く、海運と表裏一体の造船その他の海事産業もまた非常に大きな役割を担っています。
一方、近年、海事分野を取り巻く諸情勢は流動化・複雑化の度合を強め、世界的に海事産業が大きな変革期を迎える中で、我が国の海事産業には迅速かつ的確な対応が強く求められています。
その一つは、国際海上輸送が関わるグローバルサプライチェーンの混乱への対応です。COVID-19に起因したグローバルサプライチェーンの混乱は収束したものの、2022年2月からのロシアによるウクライナへの軍事侵攻がなお続き、さらに2023年10月からはイスラエルとハマスとの武力紛争が勃発しました。この関連で、2023年末以来、紅海においてイエメンの反政府武装組織フーシ派による商船への攻撃が相次ぎ、多くの商船が紅海・アデン湾を経由せず、喜望峰経由のルートに変更するなどの対応を余儀なくされています。この結果、輸送の遅れやコストの上昇など、グローバルサプライチェーンに深刻な影響が出つつあります。
二つ目は、世界的に喫緊の課題となっている気候変動への対応です。国際海運の脱炭素化については、2050年カーボンニュートラルに向けて、国際海事機関(IMO)においてGHG削減に向けた中期対策の議論が本格化しており、これに先行してEUにおいては、2024年からEU域内を発着する船舶に対し、欧州の排出量取引制度(EU-ETS)が適用されることとなりました。また、造船の分野においても、ゼロエミッションに向けた次世代船舶の開発が急ピッチで進められています。
三つ目は、DX、GXなど技術革新への対応です。自動運航船の実用化に向けた取組など海事イノベーションの動きが加速するとともに、洋上風力発電など新分野への展開も進みつつあり、これらの技術革新に対応する計画的な海事人材の確保・育成が重要な課題となっています。
このような内外における様々な課題への対応は、いずれも我が国の海事産業にとって大きな「チャレンジ」でありますが、同時に、我が国の経済安全保障の要である海事産業が、その国際競争力を高め、真に持続可能な基幹産業として飛躍・発展するための大きな「チャンス」でもあります。
日本海事センターは、我が国の海事分野の振興を図るための中核的な公益財団法人として、国内外の動向に的確に対応しつつ、専門的な研究調査を行うとともに、産・官・学連携のプラットフォームの役割を果たし、さらに海事関係団体の公益活動に対する助成や海事図書館の運営などを行っています。
世界の政治経済情勢がますます流動化・不確実化する中、当センターとしては、今後とも、国際的な活動の充実を図りつつ、海事産業界、行政当局及び教育・研究機関等との連携・協働を一層強化して、我が国の海事産業の国際競争力の強化、海事分野の公益事業の充実、海事思想の普及と海事分野の重要性についての社会・国民の理解の増進に努めてまいります。
当センターの取組及び活動に対する皆さまのご理解とご支援をどうぞよろしくお願い申し上げます。
2024年4月